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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
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三人で迎える朝と、違和感

そのまま、半日も眠ってしまったらしい。


深い夜の暗闇は既に明け、いつの間にか朝を迎えていた。

朝陽が上り、優しい光が窓の外から差し込んでくる。


ゆっくりと意識が浮上する。


最初に感じたのは、身体のあちこちにかかる重みだった。


胸の上、腕のあたり、足元。

まるで何かが乗っかっているかのように、妙に動きづらく感じた。


「う……ん……?」


微かに眉を寄せ、腕を上げようと力を込める。

だが、自分の腕だというのに、思い通りに持ち上がらなかった。


怪訝に思い、ゆっくりと瞼を持ち上げた。

瞼の隙間から差し込んでくる淡い朝の光に抗いながらも、目を覚ます。


視界に映ったのは、自分の身体の上に乗っかってすやすやと寝息を立てるティアの姿だった。


いつもなら勝手にベッドに入り込んで、俺の腕を枕に隣で眠るだけだというのに。

今日に限っては、完全に俺の上に乗っているではないか。


胸板を枕にして、安心しきった様子で、すやすやと寝息を立てている。

まるでネコのようだと、思わず苦笑を漏らした。


それだけでは無い。

隣にも温もりを感じて、視線を移す。


寝ている間に体勢を変えたのだろうか。

こちらへと身体を向け、横向きに眠っているクローディアスの姿があった。


普段はどこか隙のない表情をしているくせに、今は驚くほど無防備だ。

緩んだ睫毛の影が頬に落ち、静かな寝息が微かに聞こえてくる。


「……おい」


クローディアスに向けて小さく呼びかけてみるが、起きる気配が無い。

それどころか、こちらの気配に引き寄せられるように、わずかに身じろぎをして、小さく声を漏らしながら、さらに距離を詰めてくる始末だ。


「近いっての……」


思わず独り言が零れる。


上にはティア。

真横にはクローディアス。


昨夜、ティアに二人まとめて押し倒され、その勢いのまま三人でベッドに倒れ込んだまでは覚えている。

改めてこうして意識すると、なかなかにひどい状況だ。


簡素な一人用の寝台は、当然ながら三人分のスペースなど想定していない。

無理矢理入れたとしても、二人が限界だろう。


少しでも動けばどちらかに触れてしまう距離で、相手の体温がじんわりと伝わってくる。


窮屈だ。

けれど、不思議と嫌な気はしなかった。

むしろ、どこか落ち着くような安心感すらある。



まだ朝食の時間まで時間はある筈だ。

どうせ二人とも起きる気配はない。

無理に二人を叩き起こす理由もなければ、このままぼんやりと起きている必要もない。


(もう少しだけ……、眠っててもいいか)


そう思い、ゆっくりと目を閉じる。

意識が再び沈みかけた、その時だった。



ぎい、と。


控えめに、扉がわずかに軋む音がした。



誰かが、部屋の扉をそっと開けたのだ。

音を立てないように、細心の注意を払っているような気配。

それでも、完全に足音は消し切れずに、小さな歩幅の足音が耳に入ってきた。


目は閉じたまま、気配だけで行動を辿る。


大人のものではない、子どもの足音。


(悪戯しに来たのか)


なにか用事があるのならば、こんなにも足音を立てないようにと気を遣う必要は無い。

後ろめたいこと、あるいは悪戯をしに来たのだと、容易に想像出来た。


やがて、足音が止まる。

ベッドのすぐ脇まで来ると、なにやら取り出してる気配がする。


小さな容器の蓋を外すような、微かな音が聞こえた。

ベッドの端にそっと体重がかかり、持っている物が振り下ろされる直前で、隣から腕が伸ばされた。


「そこまでだ」


いつの間に目を覚ましていたのか、クローディアスが子どもの腕を掴んでいた。

それだけではなく、背後からティアがするりと回り込み、その小さな身体を羽交い締めにしていた。


途端に「わっ!?」と小さな悲鳴が上がった。


「なんだよ起きてたのかよー!」


悪戯しようとしていた犯人はフレイだった。

こういうことをやりかねない子どもといえばと、想定は出来ていたけれど、案の定だ。


手に握られているのは、小さな容器と、見覚えのあるペン。

昨日、食事の席でフィサリスが傍らに置いていたものと同じものだ。


やはりあれはこの子どもから没収したものだったか。

完全に現行犯だ。


「はーなーせーよー!!」


逃げようと足をばたつかせながら抵抗するフレイ。


「まったく……。昨日の落描きもおまえの仕業だな?この悪戯小僧が」


クローディアスが半身を起こし、呆れと警戒が混じった声音で呟く。


だが――。


「はぁ?昨日ってなんだよ!?」


返ってきたのは、心底わけが分からないとでも言いたげな声だった。


「……は?」


思わず、間の抜けた声が漏れる。


「とぼけるな。昨日、俺の顔に落描きしただろう?」


フレイは不満そうに頬を膨らませたまま、腕を押さえられている状態でこちらを睨んでいる。


「そんなことしてないし!今日これからやろうとしただけなのにさ!」


迷いも、言い淀みもない、はっきりとした否定。

まるで事実をそのまま口にしているだけのような、あまりにもあっさりとした言い方だった。

嘘を言っているようには見えない。


(じゃあ……、昨日のあの落描きは……?他の誰かがしたものだったのか……?)


動揺したのか、フレイを拘束していた手の力が緩んでしまう。

その隙を狙って、クローディアスとティアの腕を勢いよく振りほどくと、するりと抜け出した。


「もういいだろ!?失敗しちゃったなら用なんて無いもんねー!」


「おい、待て――」


クローディアスの制止の声も虚しく、フレイは舌を出してくるりと背を向ける。


入ってきたときの忍び足とは正反対に、今度はわざとらしいほど騒がしく足音を立てながら、ばたばたと部屋を飛び出していった。

廊下を駆けていく音が、次第に遠ざかっていく。


「どういうことだ……?」


小さく漏らしたクローディアスの呟きに、誰も応えない。


ただ呆然と、フレイの去っていった扉を見つめていただけだった。


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