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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
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賑やかな出迎え

フィサリスに頼まれたおつかいを終え、孤児院へと帰ってきた。


最初こそ良いのだろうかと躊躇っていたものの、人手があるのならこれを機会にお願いしたいと、頼まれたのだ。

両手いっぱいに抱え込んだ袋の中には、食料や衣料品、日用品などがこれでもかと詰め込まれている。


門を押し開け、中へと足を踏み入れると、

「あっ、帰ってきた!」

甲高い声が庭の奥から聞こえてきた。


視線を向けると、数人の子どもたちがこちらに気づき、わらわらと駆け寄ってくる。


「ねえねえ、それなにー?」

「おやつ、ある?」

「これ新しい服ー?」


次から次へと質問責めに遭い、思わず一歩たじろいだ。


「待て待て、落ち着けって」


袋を落とさないように体勢を立て直しながら苦笑するが、子どもたちはお構いなしだ。

背伸びをして中を覗き込もうとし、中には袖を引っ張ってくる者までいる。


今にも袋に手を突っ込みそうな勢いに、荷物を落とすまいと思わず肩に力が入った。


「こらこら、みんな。お兄さんたちを困らせたらダメだよ」


子どもたちの奥、少し離れた場所から声がした。

叱責しつつも、その声音はとても優しい。


年長者のセシルだ。


「なにがあるか、あとでゆっくり見るといいよ。そんなにみんなで群がって、お兄さんたちにいつまでも重い荷物持ちっぱなしにさせたら大変でしょ?」


その言葉に、子どもたちの動きがぴたりと止まる。

顔を見合わせてから、しぶしぶといった様子で「はぁい」と返事をする。

そのまま遊びを再開しようと、子どもたちは走って行ってしまった。


「セシルお兄ちゃんも早く早くー!」


子どもたちが手を大きく振りながら、セシルの名を呼ぶ。


「はいはい、今行くよ」


苦笑まじりに応じたセシルは、すぐには駆け出さず、一度こちらへと向き直った。


「騒がしくしてしまってすみません。あと、いろいろと手伝ってくださり、ありがとうございます」


落ち着いた声でそう言うと、軽く頭を下げた。

それだけ告げてから、今度こそ子どもたちのもとへと駆けていった。


「遅いよー!」

「もう始めちゃうよー!」


無邪気な声に迎えられ、セシルもどこか年相応の表情に戻っていく。

さっきまでの落ち着いた振る舞いが嘘のように、輪の中へと自然に溶け込んでいった。






「あ、おっかえり〜」


荷物を持ってリビングとして使われてる部屋に入ると、ノクスの気の抜けた声が俺たちを出迎えた。


椅子に深く腰掛けたまま、ぶんぶんと大きく袖を振っている。

その隣では、セレナが目を伏せて静かに紅茶を飲んでいた。


「おまえ!今までどこに……!」


クローディアスが声を荒げる。

そういえば、朝食を終えてから二人の姿は見かけていなかったな、と今さらながら思い出す。


「そんなカリカリ怒らないでよー」


ノクスは肩を竦め、悪びれもせずに笑った。


「お坊ちゃんたちがお手伝い頑張ってる間に、ボクたちはボクたちで調べ物してたんだからさ〜」


「噂のこと?」


ここに来た本来の目的を思い返す。

持っていた買い物袋をテーブルの上に置きながら聞き返した。


「そそ」


頷きながら、ノクスは椅子の背にもたれかかった。


「なにか収穫あった?」


ティアが首を傾げる。

その問いに、セレナがようやく伏せていた瞼をあげ、軽く頭を振る。

視線は手元の紅茶へと向けられたまま。


「残念ながら、なにも」


「これでもいっぱい聞き込みして、聖女サマの行動観察してたんだけどね〜」


ノクスが大袈裟に肩を竦め、お手上げとばかりに両手を広げてみせる。


「んー……で、例の聖女サマの観察結果なんだけどさぁ」


ノクスは椅子の背にだらりともたれかかりながら天井を見上げる。

そのまま片手を天井に向け、指先でくるくると空中に円を描いた。


「まぁ、お坊ちゃんたちもご存知の通り。表向きは、めちゃくちゃ“いい人”だよねぇ。そりゃあもう笑えるくらいに」


そう言いながら、ノクスが軽く肩を竦める。

その口調はいつも通り軽いのに、どこか棘が混じっていた。


「尋ねてくる信者さんの相談もちゃーんと一人ずつ丁寧に聞いてさぁ。帰る頃にはみーんなスッキリした顔してんの。で、最後はお決まり。『コレット様のおかげです』ってね」


くっくっと喉の奥で笑う。

俺たちに説明しながら、ノクス自身もその光景を思い出しているのだろう。

ほんのわずかに、目が細められる。


「しかもさぁ、外出もままならない信者さんの家にまでわざわざ出向いて、体調の確認だの、身の回りの世話だの、献身的にやってるわけ」


そこで一度言葉を切る。


「……たださぁ」


ノクスはゆっくりと体を起こすと、机に両肘をついた。

絡めた指の上に顎を乗せ、こちらを覗き込むように視線を向けてくる。


「あれだけ大聖堂でド派手に披露してたあの“奇跡”なんだけど。おかしなことに外じゃ一切使ってないんだよねぇ」


「一切?」


思わず聞き返してしまった。

わざわざ信者の自宅に何度も足を運んで世話をするよりも、あの力を使った方が効率的じゃないのか。


聞いている限り、コレットは専門的な治療を施すでも無く、誰でも出来そうな民間療法やただの身の回りの世話を行っているだけに過ぎないように思える。


「聖女との接触は本来順番制なんだろう?」


荷物を片付ける手を止めないまま、クローディアスが口を挟む。


「さっさと治して欲しいからこそ予約を取り付けているはずだ。そんな対応で済ませていたら、信者から不満が出るんじゃないのか」


もっともな疑問だった。


「それがさぁ、全っ然」


ノクスはあっさりと言い切った。


「なんにも“治療らしい治療”はされてないのにさ。感謝こそされど、不平不満は出てこないの」


「コレットがいなくなった後、陰で言ってるとかじゃ無くて?」


「それももちろん疑ったよ?聖女サマが出て行った後も、そのまま張り込んでみた。家の外から様子見たり、会話もそれとなく拾ったりね。でもさぁ、そんな様子、ぜーんぜん無いの。むしろ逆。感謝感激雨霰、ってね。……ま、たまたま、って可能性も有るけどさ」


ノクスの話が事実だとすれば、それは“優しい聖女”なんて言葉では、到底片付けられない。


胸の奥に引っかかるのは、説明のつかない違和感。

底の見えない、得体の知れない何かだった。


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