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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
43/71

野盗掃討、その後で

男の1人が斧を横薙ぎに振るう。

鈍い風圧を伴ったその一撃が、ティアへと迫った。


だが、その刃が届く先に、ティアは素早く腰を落とした。

地面すれすれまでしゃがみ込み、斧は虚空のみを切り裂き、風を切る音だけが頭上を通り過ぎていく。


「なっ……!」


勢いにつられて男の体勢が崩れ、男の足元がふらつく。

その隙を狙う。

俺は懐に滑り込むように一気に踏み込み、鞘に納めたまま、短剣の峰を男の腹に叩きつけた。


「がっ……!」


途端に、男の体がくの字に折れる。


斧を持っていた男が地面に倒れ込む寸前。

背後から別の男の気配がした。


「このっ……!調子に乗ってんじゃんねぇぞ!」


抜き身の剣が振り下ろされる。


「遅い」


その声は、男の背後から聞こえてきた。

クローディアスが男の後頭部を掴み、後方へと引き寄せる。

そのまま勢い良く、男の顔面を馬車の車体へと叩きつけた。


「ちょっとちょっと~……。無駄に汚さないでよねぇ?怒られるのボクなんだからぁ」


御者台から吞気な声音で、苦言が飛んできた。


手綱を握ったまま傍観を決め込んでいたノクスだ。

苦言を呈しながらも、その口元には楽しげに笑みが浮かべられている。


ノクスにだけ特に当たりの強いクローディアスでも、流石に悪いと思ったらしい。


「すまない!」

と謝罪の言葉を口にした。


不意にノクスの隣から

「きゃっ」

と短い悲鳴があがる。


そちらに目をやると、いつの間に接近していたのだろうか。

セレナの細い手首を、野盗の一人が掴んでいた。


「このガキひとりだけでも、お釣りが来るってもんだろ!こんなガキ、物好きな変態ジジィにでも売れば大金が手に入るってもん――ふぎゃっ!?」


言葉の途中で、男の顔面に衝撃が走る。


「きったない手でお姫様に触らないでくれないかなぁ?」


ノクスの靴底が、男の顔面に深くめり込んでいた。

鈍い衝撃音とともに、男の身体がその場に崩れ落ちる。

掴まれていた手首が解放されるのと同時に、ノクスは自然な動きでセレナを抱き上げた。


「しかもきっもち悪い……。耳が腐っちゃうでしょ~?」


口元には笑みを浮かべていたまま。

その目には、ハッキリと侮蔑の色が混じっていた。


不意に、反対側から鈍い音が響いた。

ゴンッ、と重く乾いた衝撃音。


ティアが、2人の男の頭をそれぞれ片手で掴み、そのまま勢いよく打ち合わせた音だった。

間に挟まれた衝撃は逃げ場を失い、鈍い悲鳴すら上げる間もなく2人の身体から力が抜けていく。

揃って崩れ落ちるように、その場へ倒れ込んだ。


その光景を見下ろしながら、ティアが小さく呟きを溢した。


「終わり」




―――――





「た、助けていただき、ありがとうございます……!」


野盗に襲われていた少女が、深々と頭を下げた。

その腕の中には、小さな籠が大事そうに抱えられている。


中には、先ほどまで地面に散らばっていた草花が丁寧に収められていた。

野盗に襲われた拍子にばら撒かれたのであろうそれを、戦いのあとで皆で拾い集めたものだ。


まだ微かに震えている指先。

それが、つい先ほどまでの出来事による恐怖を物語っていた。


「私、ミーナっていいます」


顔を上げた少女――ミーナは、どこか緊張した面持ちのまま名乗る。


「怪我は無い?」

「あ、はい!お陰様で、大丈夫です!」


ぱっと顔をあげて返事を返してくれたものの、その表情の奥に残る怯えはまだ消えていない。

無理に気丈に振る舞っているのが、なんとなく伝わってくる。


「なんでこんな場所に?見たところひとりみたいだし……、危ないでしょ」


周囲を見渡しても、ミーナの連れらしき人影なんて見当たらない。

決して治安の良いと言えない街の外を、か弱い女性ひとりで出歩くにはあまりにも無謀すぎる。


「えっと……、この薬草を採りに来てたんです……」


ミーナの抱える籠の中には、いくつもの草花が収められていた。

一見すれば、どこにでも生えていそうな雑草にしか見えない。

だが、薬草に詳しくない者が見逃すようなそれらも、確かな価値を持つものなのだろう。

薬効を知る者でなければ、ただの草として見過ごしてしまうに違いない。


「街の中で手に入らないの?」


ここから最も近い街は、俺たちが向かっているエクレシアだ。

聖都と呼ばれるくらいなのだから、薬屋や薬草を扱う店くらいあるだろう。


それにも関わらず、武器も持たない一般人が街道まで足を運ぶ――。

よほどの事情があると考えるのが自然だった。


「えっと、はい……。街では聖女様に治療をお願いすれば、大抵の病気や怪我は治してくださるんですけど……、その分、待ち時間が長くて……。何ヶ月も後にようやく予約できる状態で……。そんな状況だから、お店もお薬をあんまり扱わなくなってるんです……」


「だからと言って、流石に無茶ですよ」


セレナが呆れたように肩を竦めた。


偶然自分たちが通り掛からなかったらどうなっていたことか。

考えただけで背筋が冷える。


「すみません……。でも、どうしても必要で……」


申し訳なさそうに視線を落とすミーナ。

その様子に、一歩前に出た。


「良かったら、ミーナも俺たちと行かない?俺たちもエクレシアに向かってる途中なんだ」


ミーナは驚いたように顔を上げる。


「え……で、でも……、ご迷惑では……」


「気にしなくていい。このまま放っておいて、また襲われでもしたらこちらも寝覚めが悪い」


淡々とした口調で、クローディアスが言葉を重ねる。


沈黙が流れる。

やがて、意を決したようにミーナは顔を上げ、まっすぐこちらを見た。


「……ありがとうございます。お世話になります」


こうして、ミーナを送り届けることが決まったのだった。

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