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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
42/72

街道を塞ぐ者たち

馬車の揺れに身を預けながら、意識がゆっくりと現実へ引き戻されていく。


視線の先では、ティアが窓の外へと顔を向けたままだった。

視界の端から端へと、絶え間なく流れていく景色。

その移り変わりをひとつも見逃すまいとするように、彼女の目は忙しなく動いている。


横顔はどこか幼さを残していて、分かりやすく声を上げてはしゃぐわけではない。

それでも、その瞳には抑えきれない好奇心の色が滲んでいた。

まるで初めて見る景色を、丁寧に瞼に焼き付けるように。


その横顔を見ていると、自然と頬が緩んでしまうのが自分でも分かった。


こんな穏やかな光景が見られるのならば、馬車での移動も悪くない。


最初こそ、

「セレナの空間移動能力で、移動した方が早いんじゃないか?」

と提案した。


けれどもノクスがその提案に首を縦に振らなかったのだ。


んー……、としばらく考え込むように唸った後、

「たまにはさ、ゆっくりお散歩気分で馬車移動でも良くない?」

と。


そのときは適当に流したが、今になってみれば、その判断も悪くなかったのかもしれないと思えてくる。



ふと、ティアの視線が、ある一点で止まった。


「あれ……?」


小さく漏れた声。

その響きは、先ほどまでの穏やかなものとは明らかに違っていた。

視線は、馬車の進行方向に向けられている。


人影が複数。

五、六人ほどだろうか。


街道の上に転がるのは、矢を射られて倒れた一頭の馬。

その周囲には、踏み荒らされた跡とともに、緑の草花が無惨に散らばっていた。


その少し先には、身なりの整った少女がひとり。

そして武器を手にして、少女を囲む男たちがいた。


「野盗、のようですね」


クローディアスが静かに呟く。

先ほどまでの穏やかな空気は一変し、張り詰めた緊張が走る。


「……行くんでしょ?」


まるでこちらの考えなどお見通しと言いたげに、ティアがこちらを振り返る。

その目は既に無邪気さは息を潜め、真剣なものへと変わっていた。


その視線を受けて、静かに頷いた。


「……あぁ」


目の前で起きている惨状を、見過ごせるほど出来た人間じゃない。

二人も、そんなことなど言葉にせずとも分かっていたとばかりに、ふっと笑った。


クローディアスが窓を開ける。

流れ込んでくる風を受けながら、そのまま御者台に座るノクスに声を掛けた。


「ノクス、そのまま突っ込んでくれ」

「あはは~、やっぱりそうなるよねぇ」


返って来たのは、緊張感が一切感じられないくらいに軽い声音。

ノクス自身もこちらの考えていることなど、分かりきっていたのだろう。


御者台に座り、手綱を握るノクスが、進行方向で諍いが起きていることに気付かないわけが無い。

それなのに、速度を落とす様子も無かったのだから。


こちらが首を突っ込むことも、最初から分かっていたのだろう。

だからこそ、あえて馬車をそのまま走らせている。

そんな風にも思えた。


「振り落とされないようにしっかり捕まっててよー?」


その言葉を合図に、ピシリと手綱を鳴らす。

馬が(いなな)きをあげ、速度を上げる。


馬車が一気に加速したて、ガタリと車体が大きく跳ねる。

不規則な揺れが、さっきまでとは比べものにならない強さで襲ってきた。

咄嗟に座席へと手をかけ、身体を支える。

油断すれば、そのまま投げ出されかねない。


馬車はそのまま、減速することなく一直線に突っ込んでいった。


「なんだ……!?」


最初に異変に気付いたのは、野盗の一人だった。

振り向いたその顔に浮かぶのは、明らかな動揺。

続けて周囲の仲間たちも驚愕する。


無理もない。

街道を塞ぐように立っていたはずの自分たちに向かって、馬車が躊躇いなく突進してきているのだから。


「なっ……!」

「馬車!?」


ギリギリの距離で、誰一人撥ねることなく、馬車が横滑りするように停止する。

間髪入れず、バンッ、と勢い良く馬車の扉が開かれた。


ティアが真っ先に跳び出す。

ドア枠に手を掛け、身体を支えたまま、最も近くにいた男へと迷いなく蹴りを叩き込んだ。

踏み込みと同時に放たれた一撃は、男の脇腹を捉えた。


「ぐぁっ!?」


鈍い音とともに、男の身体が横へと吹き飛んだ。

そのまま地面へと軽やかに着地をする。


その後に、クローディアスが降り、俺も地に足をつけた。


「ちっ、増援かよ!」


吹き飛ばされた仲間を見て、野盗の一人が舌打ちする。

だが、その目に浮かんだのは焦りだけじゃない。

数で押せばどうにかなると、そんな甘い判断も透けて見えた。


「女とガキが増えただけだろ!しかもやたら身なりのいい!こいつらも全員殺して身ぐるみ剥いじまえ!」

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