余韻、そして説教
シオンとシランの骸は、無数の花弁へと変わり、とうに風に流されていた。
そこに残っていたのは、淡い紫と、淡い桃色の花弁。
紫苑と紫蘭。
二つの花弁が、一片ずつ重なり合っていた。
まるで寄り添うように。
身を寄せ合うように。
朝陽が昇る。
深夜から早朝の時間帯へと移り変わり、遠くから鳥の囀りが聞こえてきた。
別々の場所で繰り広げられていた戦いも終わり、ノクスとセレナも既に合流している。
合流するなり、ノクスが背中に体重を掛けて寄り掛かって来た。
腕にはセレナを抱えたまま。
突然加わる背中からの重さに驚いて、
「うわっ」
と短く声をあげてしまった。
「お坊ちゃんボク疲れた〜。能力の連続使用はキツイってぇ〜……。ボク耐えきれなくて死んじゃいそ〜」
軽い声音で言われても、まだまだ余裕がありそうに感じられてしまう。
思わず、はは……と苦笑いを浮かべてしまった。
「死にそうって言ってる割には、元気そうだけど?」
「あはは、ひっど〜い。ボク滅茶苦茶頑張ったのに〜」
「そのようにふざけているから、本気にされないんですよ」
セレナの淡々とした一言に、ノクスはわざとらしく肩をすくめた。
「え〜? ひどくない? お姫様まで冷たい〜。命令させたのはお姫様なのに、もう少し労わってくれても良くな〜い?」
「甘やかしたら調子に乗るでしょう」
「そんなこと〜……、あるかも?」
(あるのかよ)
思わず心の中で突っ込んでしまった。
ひとしきりそんなやり取りをした後、ようやく俺の背中に寄り掛かることをやめる。
背中の重みがふっと軽くなった。
「ねぇねぇ、あれ楽しい?私もやっていい?」
ティアがこちらを指差す。
彼女の視線の先にいるのは、隣に立つクローディアスだ。
悪気のない、純粋な好奇心による問いかけ。
対象が俺では無いあたり、ティアなりの気遣いなのだろう。
「勘弁してくれ……」
困ったように、クローディアスが肩を竦めた。
――――
「おまえらは揃いも揃ってバカなのか!?」
屋敷に帰った俺たちを出迎えたのは、アステルの怒声だった。
ビリビリと部屋全体の空気が震える。
広い部屋に敷かれた豪華な絨毯の上に、揃いも揃って正座させられて、ガミガミと説教を受けている。
なんとも滑稽な光景だ。
「でも単独行動は控えたよ〜?」
空気を読まずに口答えするノクス。
その一言が、余計に火に油を注いだ。
「集団行動すればいいってもんじゃない!!どこに!危険だとわかってて!危険地帯に首を突っ込むバカ共がいると思うんだ!!」
アステルの怒りはごもっともだ。
何も言い返せない。
相変わらずノクスは「え〜?」と反省する様子も無い。
セレナは静かに目を伏せ、説教を甘んじて受けている。
ふと、両隣にいるクローディアスとティアへ視線を向けた。
こちらの視線に気付いたのか、あるいは偶然か。
ぱちりと目が合う。
――次の瞬間。
ぶはっ、と3人同時に噴き出してしまった。
当然のように、追い打ちをかける怒声が飛んできたのは言うまでもない。




