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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第一章
4/27

刻印

このままでは、底まで落ちる――。


そう理解した瞬間、全身の筋肉が強張った。


視界の端で、崩れ落ちた土砂が先に闇へと呑み込まれていくのが見える。

まるで、光そのものが吸い込まれていくように、何もかもが暗闇に消えていく。


底があるのかすら、分からない。


どこまで続いているのかも。

どれだけ落ちれば終わるのかも分からないまま、ただひたすらに落ちていく。


耳元で風が唸り、衣服がばたつく音がやけに大きく聞こえた


身体は宙に投げ出されたまま、どこにも触れることができない。

足場も掴めるものも無い。


支えという概念そのものが、この空間から切り離されているかのようだった。


「っ……!」


思わず息を呑んだ。


このままでは、いずれ地面に叩きつけられる。


思考がそう結論を導き出した、その時だった。


――何かが来る。


理由も根拠もない。

ただ、直感だけが警鐘を鳴らした。




ジャラララララッ!!




耳を劈くような金属音が、空間そのものを震わせる。

反射的に、音のした方へと視線を向けた。


視界の端から、黒く細長い影が一直線にこちらへと伸びてくる。


「なっ――!?」


一直線に伸びてきたそれを、避けることも、防ぐことも出来ない。


今の俺には、体勢を変える術すら存在しない。

ただ落ちているだけの身体では、何一つ対応できないでいると、やがてそれは、俺の手首に絡みついた。


「っ……!?」


痛いほどに冷たいそれは硬質な素材で出来ており、無機質な感触が皮膚に食い込む。

逃がす気など微塵もないとでも言うように、きつく、強く、締め上げてくる。


――鎖だ。


そう認識した瞬間。


別の方向から、同じ音が響いた。


ジャラララッ!!


反応する暇すらない。


もう片方の手首。

右足首。

左足首。


次々と伸びてきた鎖が、四肢すべてに絡みつく。


「っ、あ……!?」


皮膚に食い込み、骨の奥まで響くような痛みが走る。


だが、その痛みと引き換えに——落下は止まった。


四方から引かれ、身体が宙に固定される。


急激な制動に、全身の関節が悲鳴を上げた。

引き千切られるかと思うほどの負荷が、一気にかかる。


「……っ、くそ……!」


息が詰まる。


肺の中の空気が押し出され、思うように呼吸ができない。


「どこから……っ、来てんだよ、この鎖は……!」


歯を食いしばり、無理やり腕を引く。


だが、びくともしない。


ジャラ、と乾いた音が響くだけで、拘束は一切緩む気配がなかった。


視線を巡らせる。


鎖の先を辿ろうとするが、すべては闇に呑まれている。

どこから伸びているのか、まるで分からない。


術者がいるのかとも考える。

だが、気配が無い。


視線も、呼吸も、存在そのものも。

何も感じ取れない。


ただ一つ分かるのは、自分が、得体の知れない“何か”に繋ぎ止められているという事実のみ。


「……なんだよ、これ」


思わず、声が漏れる。


当然、返事はない。

独り言のようなその声すら、闇の中へと吸い込まれて消える。


その異様な静けさが、余計に不気味さを際立たせた。


「何がしたいんだよ……」


思わず零れた声は、闇に吸い込まれて消えた。

諦めに似た思いで上を向こうとしたその時。


不意に首元に追加の鎖が巻き付いた。


「っ――!?」


反射的に身を強張らせる。


すぐさま冷たい鉄の鎖が、首元に巻き付いた。


「っ、ぐ……!?」


完全に締め上げられてはいない。

だが、確実に気道が圧迫される。


息が、浅くなる。


空気が足りない。


絞殺が目的ではない。

なら、これは何だ。


「……っ、は……」


呼吸が乱れる中で、思考が妙に冷静になる。


これはまるで罠のようではないか。


だが、だとしたら、これはあまりにも悪趣味だ。


「……っ、はは……」


乾いた笑いが漏れた。


罠にかかった獲物を、こうして嬲って楽しむ趣味か。


最悪だな、と他人事のように思う。


そんな思考が過ぎった、直後。

首元の鎖に変化があった。


「……?」


違和感と共に、嫌な予感が感じ取られたその次の瞬間。


首に巻かれた鎖から熱が走った。


「っ、あ…!」


一瞬遅れて、理解する。


焼けている。


首が。


「ぁあああああああああああっ!!」


絶叫が、反射的に溢れた。


焼ける。


ただ炙るような生易しいものではない。


線を引くように。

なぞるように。


確実に、何かを“刻み込む”ように。


皮膚の上を、熱が這い回る。


「ああああっ!!やめろっ!!」


呼吸が乱れる。

視界が白く弾ける。


「離せっ!!離せぇええっ!!!」


四肢を必死に動かす。


だが、鎖はびくともしない。


逃げ場はない。

拒む術もない。


ただ、焼かれる。


刻まれる。


その事実だけが、現実として突きつけられる。


やがて、ゆっくりと首を焼く熱の感覚が収まったのを感じる。


「……っ、は……」


同時に、するりと四肢を拘束していた鎖が、嘘のように解けていく。


支えを失った身体が、ゆっくりと落ちる。

だが今度は落下ではない。


まるで、優しくそっと降ろされるように。

静かに、黒一色の地面へと触れた。


「っ……は……っ、は……っ」


喉が解放される。

一気に空気が流れ込み、肺が焼けるように痛んだ。

咳き込みながら、必死に呼吸を繋ぐ。


だがそれ以上に、首元に残る感覚が、強烈に意識を引き戻した。


容赦無く焼かれた筈の場所。

そこに何かが残っている気がして仕方ない


「……なん、だよ……これ……」


視界が揺れる。


残ったのは首元に残る、焼けるような感覚のみ。


それを最後に、俺は意識を手放した。

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