戦場に割り込む狂気
「レイン……!!」
目の前に立っていた筈のレインの姿が後方へと弾き飛ばされた。
ほぼ同時に、ティアが飛び出し、クローディアスの叫びが響く。
振り返ると、吹き飛ばされたレインの姿に被さるように、武器を手に体当たりしているシランの姿。
直前まで、シランは武器なんて持っていなかった。
室内で2人きりだと言わんばかりに、シオンの首に腕を絡め、まるで恋人同士のような甘い空気さえ漂わせていた。
だからこそ、誰もが反応に遅れてしまった。
「……へぇ?」
口元に袖を当てて笑みを浮かべた。
ティアが飛び出していった以上、レインがそのまま地面に叩き付けられることはないだろう。
その直後。
それを追うように、シオンも躊躇なく飛び降りた。
「ノクス、命令を」
名を呼ばれ、腕の中へと視線を落とす。
片腕で抱き上げられたままのセレナが、まっすぐこちらを見上げていた。
「レインたちのところに行きますよ。私たちも加勢を――」
セレナの言葉は最後まで続かなかった。
ドガァンと、と空気を裂くような轟音が響き渡った。
それと同時に、視界を覆い尽くすほどの砂埃が一気に舞い上がる。
目や口に砂埃が入らないように、咄嗟に袖で顔を覆う。
「おいおい、俺のいないところで、随分と面白ぇことやってんな」
砂埃の中から、低く掠れた笑いが混じる。
楽しげでありながら、乱暴な印象の男の声。
砂埃の向こう側で、ゆらりと、黒い影だけが動いた。
「俺も混ぜろよ」
徐々に視界が晴れて、視界が一気に開ける。
乱雑に刃物で切り裂かれたかのように、不揃いに肩よりも伸びた髪が無造作に跳ねている。
黒を基調としたその髪には乾いた血のような暗い赤が混じっていた。
黒いロングコートだろうか。
しかしその衣服は上半身のほとんどが裂けており、もはや体を覆うという機能を果たしていない。
代わりに露わになった鍛え上げられた肉体には無数の古傷が刻まれ、腕に巻かれた包帯だけがわずかに上半身を覆っていた。
獣のような赤い瞳がこちらを射抜く。
そこには愉悦の色が滲み、男は笑っていた。
「ふぅむ……、彼らのボスってとこかなぁ」
細身のシオンとシラン。
その2人とは比較にならないほどの存在感を放つ男──グラオザームを見据えながら呟く。
セレナの身体をそっと地面に下ろし、視線を動かした。
隣ではクローディアスが歯噛みしながら、腰に下げた剣の柄へと手をやっている。
くすりと笑い、クローディアスの前へと歩み出た。
「黒犬くん、お坊ちゃんのとこに行きなよ」
「何を言って……!?」
クローディアスの驚愕の声が聞こえた。
それでも振り返らない。
「だって黒犬くん、お坊ちゃんの様子気になって仕方ないんでしょ?」
言葉にしなくとも、今すぐにでもレインの元へ駆け出したいという焦燥がひしひしと伝わってくる。
その状態で、全力を出せるのか。
彼を信用していないわけではない。
だが、それならば行かせた方が良い。
「ほら、行きなよ黒犬くん。ここはボクたちが請け負うからさぁ」
その言葉に、一瞬だけ間が生まれる。
本当に行っていいのかと躊躇いを見せたのち、
「すまない……!」
すぐに背を向け、レインの元へと駆け出した。
「行かせるか、よッ!!」
背中に背負っていた大剣を握りしめ、クローディアスへと向けて振り下ろす。
グラオザームの巨躯とほぼ変わらぬほどの大剣。
しかし、その大剣がクローディアスに届くことは無かった。
「あ?」
ギチギチと軋んだ音を立てて、大剣が空中で停止する。
クローディアスにその刃が届くよりも先に、ワイヤーが刃を絡め取っていた。
「ボクたちと先に遊んでからでも遅くないよねぇ。お楽しみは一瞬で終わるより、いっぱい味わいたいってもんでしょ〜?」
意図せぬ妨害に浮かんでいた怪訝な表情が、ゆっくりと愉悦へと変わっていく。
「いいぜ?せいぜいすぐ壊れてくれんなよ?」




