見過ごせない性分
通りへと足を踏み出した、その時。
前方の大通りがざわついているのに気付く。
人の流れが中央を避けるように、左右へと分かれていた。
誰もが視線だけを向け、関わることを避けている。
そんな、不自然な光景。
「何かあったのか?」
思わず足を止め、目を細める。
「どうやら、揉め事のようですね」
淡々とした声音でクローディアスが答える。
「どうしますか?遠回りをして避けることも出来ますが……」
「うーん……」
クローディアスの問いにすぐには答えずに、視線を中央へと向ける。
通りの真ん中に、数人の男に囲まれるようにして、ひとりの少年が立っていた。
細身の体格で、年もそう離れてはいないように見受けられる。
それでも、その立ち姿には妙な落ち着きがあり、この場の空気からどこか浮いていた。
周囲の喧騒とは切り離されたような静けさ。
ただ、その視線だけが、まっすぐ前を射抜いている。
少年は苛立ちを隠す様子も無く眉間に皺を寄せ、心底面倒だとばかりに大きく息を吐いた。
「……そこ、どいてくれないか」
低く抑えた声には、はっきりとした拒絶が滲んでいた。
その一言で、周囲の空気がぴり、と張り詰める。
「はぁ?」
男の一人が顔をしかめた。
その態度が、男の癪に障ったのだろう。
「状況ってモンが分かってんのか?囲まれてんのはお前だぞ」
嘲るような物言いに、少年は一度だけ視線を流し、ゆっくりと男たちを見渡した。
そしてまたも溜め息を吐き、肩を竦めた。
「分かってるさ。だから言ってるんだろ。邪魔だって」
「なんだと!?」
「数で囲まないと話もできないのか……。それで優位に立ってるつもりなら、滑稽だな」
感情の感じさせない声音で淡々と畳み掛ける。
その一言一言が、少年を囲む男たちを露骨に見下していた。
「舐めてんのか、てめぇ……!」
怒りが頂点に達したのだろう。
わなわなと苛立ちを隠さないまま、一人が前へ出た。
男の腕が少年へと伸びる。
止める者はおらず、距離を保ったまま誰もがただ遠巻きに見ているだけだった。
その瞬間、誰に止められる間もなく反射的に踏み込む。
躊躇なく男と少年の間へ身体を差し込み、振り下ろされる拳の前に割り込んだ。
「危ない」
すぐ傍でティアの声が聞こえた。
次の瞬間、男の腕が途中で止まる。
ティアの細い指が男の手首を掴み、その動きを強引に押さえ込んでいた。
勢いのまま叩き込まれるはずだった衝撃が、寸前で止められる。
わずかに遅れて、風が頬を掠めた。
「っ、なんだお前ら!」
細い指が手首を掴み、その動きを押さえ込んでいた。
叩き込まれるはずだった衝撃が、寸前で消える。
遅れて、風だけが頬を掠めた。
「っ、なんだお前ら!」
男が怒鳴り、掴まれた腕を振り払おうとする。
だが、外れない。
細い腕で掴んでいるはずなのに、びくともしなかった。
「レインに触らないで」
ティアは淡々とした声音のまま、男の手首を捻り上げた。
「ぐっ……!」
顔が歪み、くぐもった呻きが漏れた。
骨が軋むような音が、小さく響く。
「は、離せ……っ!」
力任せに振り払おうとするが、指は微動だにしない。
その横から、別の男が踏み込む。
「この……っ、舐めてんじゃねぇぞくそアマぁ!!」
拳が振り下ろされる、その直前。
男の身体が、前のめりに崩れた。
ダンッと鈍い音を立てて、男の体が地面へと叩きつけられたのだ。
「動くな」
男は顔を歪め、短く呻き声を漏らす。
クローディアスが間に入り、冷たく見下ろしながら、その男背に無造作に足を乗せていた。
その隙に少年の手を掴む。
「行くぞ」
短く告げ、そのまま引く。
少年は何も言わず、自然と歩調を合わせてくる。
振り返らない。
そのまま人の流れへと身体を滑り込ませる。
背後は気にしない。
クローディアスがついてくるのは、確かめるまでもなかった。
「逃がすか!」
俺たちを追いかけようと踏み込む靴音が聞こえた。
「邪魔」
ティアが小さく呟く。
すれ違いざま、足を差し出す。
「うおっ!?」
体勢を崩し、そのまま前のめりに倒れ込む。
「レインの邪魔、許さない」
軽く言い残し、ティアもすぐに身を翻した。
遅れることなく、こちらへと追いついてきていたのが見えた。




