不穏な気配
その頃。
遠く、別の場所にて、薄暗い室内に5つの気配があった。
円卓を囲むように位置しているが、誰一人として姿勢を揃えていない。
深く腰掛ける者、背もたれにもたれかかる者、腕を組んだまま動かない者。
統一されていない。
だが、場は不思議なほど静かにまとまっていた。
「——で?」
沈黙を破ったのは、気の抜けたような声だった。
背もたれに体を預け、片肘をついている男が、退屈そうに指先で卓を叩く。
「どうなってんの?あれ」
「確認してる」
間を置かず、別の声が応じる。
抑揚のない、淡々とした声音。
「反応は弱いが気配は拾っている。今のところは落ち着いてるみたいだが」
「“ようだが”、……ね」
すぐさま、別の声がその言葉尻を拾った。
やや低く、どこか棘を含んだ声音。
「歯切れ悪いな。結局さぁ?危険なのかどうかハッキリしろよ」
「現時点で断定はできない」
「はっ!要するに……。“分からねぇ”ってことだろ?」
卓を叩いていた男が、鼻で笑う。
「だったらあーだこーだと難しいこと考えないで、芽のうちに潰せばいいだけだろ?」
「相変わらず短絡的ー」
呆れたように差し込まれた少女の声。
「まだ詳しいことも分からないまま手を出せば、どうなるかくらい想像できるっしょー?もしかしてその頭の中スッカスカなのー?」
きゃははは、っと高めの笑い声が響き渡る。
張り詰めた雰囲気には不釣り合いな声に、男がちっと舌打ちをする。
「このまま放置して手遅れになりました、という事態は洒落にならないかと」
また別の男が口を開いた。
「えー?でもさ、中途半端に刺激して最悪の事態を起こされる方が厄介じゃない?」
「……どっちに転んでも面倒ってわけか」
それまで黙っていた、別の男がぼそりと呟いた。
低く落ち着いた声。
場を俯瞰するような、力の抜けた響きだ。
「で?結局どうする」
わずかな沈黙。
全員の視線が、自然と一箇所に集まる。
「暫くは観察に徹する」
淡々とした声が、結論を落とした。
「チッ……、つまんねぇな」
粗暴そうな男が再度舌打ちした。
「だが、当然の決定だ」
棘のある声が、わずかに笑みを含ませた。
「……好きに動くなよ」
低く、釘を刺すような声が落ちる。
全員に言っているようで、その視線は粗雑な男ひとりに向けられていた。
「分かってるって」
返ってきたのは軽い返事。
男は椅子の背に深くもたれたまま、気だるげに手をひらひらと振る。
「俺はちゃーんと。“大人しく”してるよ」
その言葉に、誰も何も返さなかった。
ほどなくして。
人気のない通路に、靴音だけが響いていた。
「はぁ……」
気の抜けたため息。
粗暴な雰囲気の男が、気だるげに頭をかく。
「大人しく、ねぇ……」
誰に聞かせるでもなく、ぼやく。
その足を止め、トンっと石造りの壁に背を付いた。
「……少しくらい、暇つぶししてもバチは当たんねぇよなぁ?」
まるで悪さを思い付いたように、口端が歪に吊り上げられる。
低く漏れたその声には、罪悪感の欠片も感じられなかった。




