預けられた体温
「ふぅー……、ひどい目に遭ったぁ……」
ひと騒動がようやく落ち着いたあと。
ノクスは窓際の椅子にどさっと腰を下ろし、天井を仰ぐ。
肩で息をしながら、やれやれと言いたげに呟いた。
「ほんと殺されるかと思ったんだけど~……」
その言葉に、間髪入れず突っ込みが入った。
「ノクスが悪い」
「自業自得でしょう」
ティアとセレナの声がほぼ同時に掛けられる。
「女性陣が辛辣~」
相当疲れたのだろう。
ノクスは笑いながらも、どこか力の抜けた様子だった。
椅子の背にもたれかかり、だらりと腕を垂らす。
そんなノクスを横目に、クローディアスはいつものように紅茶を淹れていた。
慣れた手つきで用意し、順番に全員の前にカップを置く。
セレナは自分の前に置かれたカップを手に取りながら、口を開いた。
「もう動いて大丈夫なのですか?」
昨日一日中寝込んでいたクローディアスを案じての言葉だった。
「あぁ。頭痛はまだ少しあるけど、だいぶ良くなった」
万全ではないことを隠すこともせず、正直に答える。
少なくとも、無理をして動いている様子はなかった。
セレナはその言葉を聞いて目を細めて微笑んだ。
「そうですか。無理はなさらないようにしてくださいね」
静かな動作で紅茶に口をつける。
ふと、袖が引かれる感覚がした。
隣を見ると、眠そうに目元を擦っているティアがいた。
こくりこくりと、今にも眠りに落ちそうになっている。
クローディアスの容体が落ち着いたこと。
そしてノクスやセレナも来て騒がしくなったことにより、緊張の糸が切れたのだろう。
一日中起きていたのだ。
ほとんど休まず、安全が脅かされないように気を張り続け、安全を確保して、ずっと見張ってくれていたのだ。
無理もない。
ティアは小さく瞬きを繰り返しながら、ぽつりと呟いた。
「ねむい……」
袖をつまんだ指が、もう力を失いかけている。
そのままゆっくり、身体がこちらへ傾いてくる。
「おいっ」
反射的に腕を伸ばした。
細い肩を支えるように受け止める。
そうしなければ、そのまま椅子から滑り落ちて床に倒れ込んでいただろう。
「もう寝るか?ノクスもいるし、もう休んで大丈夫だろ」
そう声をかけると、ティアは腕の中で小さく頷いた。
「……うん」
抵抗する気配は無く、素直に体重を預けてくる。
俺の袖を掴んでいた指先に掛かる力もほとんど抜けかけていた。
もう自分でベッドに移動する余裕さえ無さそうな様子で、目を伏せてしまう。
空いている方の腕をそっと膝裏に差し入れ、彼女の身体を抱き上げる。
そのまま椅子から立ち上がると、ベッドへと向かった。
ティアは既に夢の中に沈み掛けてしまっているようで、静かに寝息を立てている。
そんな彼女を起こしてしまわないように気を付けながら、そっとベッドの上に下ろした。
「……おやすみ、ティア」
シーツを被せ、軽く頭を撫でながら小さく呟いた。




