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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第四章
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笑顔の裏切り

あの後、いつの間にか眠ってしまったらしい。

気を張り続けていた反動だったのかもしれない。

ベッドの端に腕を交差させて、突っ伏してしまっていた。


ゆっくりと瞼を開く。


もう夜は明けているらしく、窓から差し込む光がぼんやりと視界を照らしていた。


頭が少し重い。

寝不足特有の鈍さを感じながら身体を動かそうとして、肩に違和感を覚えた。


いつの間にか、肩にシーツが掛けられている。

俺の肩から背中にかけて、ずり落ちないように被せられていた。


それに気付いて顔を上げようとして。


影が覆い被さるように掛かっていたことに気付いた。


いつから起きていたのだろうか。


クローディアスが起き上がり、俺を見下ろしていた。


黒い髪が朝の光を受けて、少しだけ淡く見えた。

深い水底のような青い瞳が細められている。


まだ本調子ではないのだろう。

顔色はまだ少し悪い。

けれど昨夜のような苦しそうな様子は見受けられなかった。


「クロ……?」


寝起き特有の、寝惚けた声が漏れる。

するとクローディアスは小さく眉を下げた。


「おはようございます、レイン様」


穏やかな声音で、挨拶の言葉を掛けられる。


今はもう、熱に浮かされることも、悪夢に苛まれてもいない。

それだけでも穏やかな気分になった。


「おはよ、クロ」


挨拶を返しながら身体を起こす。


長時間同じ姿勢で寝ていたせいか、肩や腕が少し重たい。


肩に掛かっていたシーツが、動いた拍子にするりと滑り落ちそうになった。

クローディアスが手を伸ばし、シーツを掴み取ると、そのまま丁寧に畳み込んだ。


「ん……、レイン起きた」


聞き慣れた声に視線を向ける。

ベッドの端にはティアが腰掛けていた。


「おはよ、ティア」


そう声を掛けると、ティアは小さく頷く。


「ん、おはよ」


よく見ると、少しだけ目元が重そうに見える。

俺が眠りに落ちてしまっていた間も、ずっと起きていたらしい。


少しだけ眠そうに、それでも微笑んでいた。


そのまま俺はクローディアスへと視線を向け、手を伸ばした。

彼の額に手を当てて体温を確認する。

高かった体温は落ち着いていた。


「よかった。……熱、下がってるな」


小さく呟くと、クローディアスはほんの少しだけ目を細めた。


「えぇ……。おかげさまで」


そんな穏やかな時間を壊すように。


バンッ、と勢い良く扉が開けられた。


俺もティアもクローディアスも、

ほぼ同時に、ビクゥッと大きく肩を跳ねさせた。


「おっはよ〜!昨日はよく眠れたかなぁ〜?」


やけに元気の良いノクスの声が飛び込んできた。

にこにこと満面の笑みを浮かべながら、そこに立っている。


「びっ……、くりしたぁ……」


思わず息混じりに声が漏れる。

胸を押さえながら呼吸を整えていると、ノクスはさらに楽しそうに目を細めていた。


唐突にティアの姿が、ふっと視界から消える。

そして次の瞬間には、ノクスの目の前に跳び込むように瞬間移動をしていた。


手には白銀と黒紫の刃。


そのまま床に倒れ込む衝撃音が響いた。


「待って待って待って!?黒ユリちゃん!?ちょっとした悪戯じゃんー!?」


悲鳴交じりにノクスが叫ぶ。


そんな声をあげながらも、眼前に迫る刃を寸前のところで止めていた。

両手でティアの手首を掴み、引き攣った笑みを浮かべたまま抵抗していた。


「病人いるってわかっててなんでそういうことするの」


「本当に……。刺されても文句言えないことばっかりするんですから」


扉の向こう側から遅れてセレナが姿を見せた。

足元に転がるノクスの姿を一瞥して、呆れたように大きめの溜め息を吐いた。


「お姫様も見てないで助けてー!?」


「そのまま一度刺されればいいと思います」


ズバッと、容赦のないひとことを落とし、

すたすたすたと、目を伏せながらノクスたちの横を通り過ぎてしまった。


「ちょっとーーー!?」


ノクスの声だけが虚しく部屋に響いた。

それでもセレナは振り返らない。


本気で助けるつもりが無いらしい。


不意にノクスの視線がこちらに向いた。


「お坊ちゃん!お坊ちゃんでいいから黒ユリちゃんに命令して退かしてよー!?」


今度はこっちに矛先が来る。

刃はまだノクスの目の前で止まったまま。

ティアは一切表情を変えず、なおもノクスに刃を突き立てようとしていた。


俺は少しだけ間を置いて。

にこりと笑った。


それを見て、ノクスの顔がわずかに明るくなる。

助かった、とでも言いたげに。


その顔を見ながら。


俺は満面の笑顔で言い放った。


「やぁだ♪」


「え」


裏返るノクスの声。

そのまま表情が固まってしまった。


「え、ちょっと待って!?今“やだ”って言った!?ねぇ!?噓でしょ待って!?ねぇーーー!?」


そんな騒がしいやり取りを横目に、クローディアスが頭を抱えた。

呆れたように溜め息を吐いて、小さく呟く。


「朝っぱらからなにやってんだ……」


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