黒い花の願い
ノワールは、入って来たときに使った窓枠に足を掛ける。
軽く身を乗り出し、窓の外へと跳び出そうとしていた。
夜風が部屋の中へと流れ込み、彼女の黒い髪をふわりと揺らす。
帰ろうとするその背中に向かって、思わず声を掛けた。
「ちょっと待て。結局、ルーの訊きたいことってなんだったんだ?」
俺の声に、ノワールは動きを止める。
「んー?」と声を漏らしながら、顔だけをこちらへ向けた。
「だから……。なんでこんな場所にてめーらみてーな余所もんが、それも金髪のやつがいるのかっての。全部てめーらが説明してくれたじゃんか」
ノワール自身がすべての質問を投げ掛けたわけでも無かったとしても、結果的に彼女の知りたい情報が得られた。
訊きたいことが解消されたから、ここに来た用事も終わったということなのだろう。
「……ルーは一緒に来ないのか?」
気付けば、そんな言葉を零していた。
「もちろん、ネコも一緒に」
俺の言葉に、ノワールが目を丸くしてこちらを見る。
理解が追い付かない。
なにを言われたのかわからない。
そんな顔を浮かべ、すぐにふっと笑った。
眉を下げ、口元に笑みを浮かべる。
「冗談。てめーといると、ルーはてめーを殺したくて殺したくて仕方なくなるんだ。ルーを殺して、助けてもくれねーくせに、気色わりーこと言ってんじゃねーよ」
嘲笑うように吐き捨てられる。
そのまま視線が外に移され、再び外へと乗り出そうと足に力が込められる。
出て行く直前。
ふと思い出したように、「あぁ、それでも」と続けた。
「もし……。てめーらがお願い聞いてくれるんだったら……。ルーがダメになったらちゃんと、腹黒性悪暴力女がトドメさしてくれよな。痛いのは、嫌いなんだ……。あと、ネコのやつ……、セタリアのこと、お願いできねーかな」
こちらを見ないまま、静かに続けられる言葉。
寂しそうな表情を浮かべながら、案ずるのは仲間であるセタリアのことだった。
「……あんな見た目だから、独りだと生きていけないんだ。だから保護してやってくれ」
そこまで言うと、ノワールは軽く息を吐いた。
「……なんてな」
嘲笑うように。
冗談だと言うように。
次の瞬間。
ノワールは背を向けたまま、そのまま窓の外へと跳び出した。
鎌の柄へと手を伸ばす。
黒い鎖が夜風に揺れ、ジャラ……と乾いた音を立てた。
そして刃を抜く代わりに、ノワールが手にしていた大鎌が、ふっと夜の闇に溶けるように掻き消えた。
同時にノワールが壁を蹴る。
残ったのは、ひらりと舞い落ちる黒い花弁だけだった。




