↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第四章
137/145

知らなかった想い

「だったら……。ルーに訊いたの、正解だったかもな」


ぽつりと、ノワールが呟いた。

足を組むことをやめ、ぶらぶらと両足を交互に揺らす。

どこか考え込むような表情を浮かべながら、言葉を続けた。


「……別に話してもいいけど、手っ取り早く知る方法あるって言ったらどうするんだ?」


確認するように問い掛けられる呟き。

試すようでもあり、反応を窺うようにも思えた。


だが、その言葉を聞いた瞬間。

その方法がなんなのかすぐに思い至り、思わず眉を顰めた。


「それは、ティアがおまえを殺すことか?」


「あ、やっぱり知ってるんだ?こいつ、もう既に一人、取り込んでるっぽいもんな」


ノワールがくすくすと楽しそうに笑いながらティアを見る。


驚くことも無く、予想していたというように。

紅い瞳が細められた。


「どれだろう。呪い、恋、愛……」


じっとティアを見据えながら呟く。

どの要素が当てはまるのか、確認している様子だった。


「あんまなに考えてっかわかんねーから元々は呪いの方か?後から取り込んだのは多分、恋ってやつだろ。愛の方ならもっと気色悪い、どす黒い目をするだろうからな」


「黒ユリの花言葉か」


そう呟くと、ノワールはこくりと頷いた。


「そう」


前にセレナが言っていた。

呪華は、それぞれの花にまつわる花言葉や、その花から連想される能力を使用すると。


そしてティアはその中のひとつ、呪いにまつわる能力しか使えなかった。


だが彼女と同じ、黒ユリの呪華であるコレットを倒した後から、ティアの様子が明らかに変化した。


最初に気付いたのは、俺への態度だ。


急に俺を避けるようになった。


それまでこっちが追い出しても拒んでも注意しても、なにも気にすることなく隣に居座っていたのに、不自然に俺から距離を取ることが増えた。

目が合うと視線を慌てて逸らされ、話し掛ければ顔を赤くして逃げ出す。


食事の時だってそうだ。


以前のティアは、そこに食器が並べられていても使用することなんて無かった。

目の前の食べたい料理に直接手を伸ばし、指先が汚れても気にせずに食べる。

口元を汚しても誰かが拭くまで気にも留めない。


それがいつの間にか、慣れない手付きながらも食器を使うようになっていた。

こぼさないように。

汚さないように。

不器用ながらも、気を付けて食事をするようになっていた。


そして極め付けは能力だ。

コレットの使っていた弓矢だったり、魅了の能力だったりが使えるようになっていた。

本来ならティアが使えなかったはずのもの。

その時点で、ティアがコレットを取り込んたという結論には辿り着いていた。


だが。

そこから先のことなんて考えたこともなかった。


取り込んだ結果、何を受け継いだのか。

どんな意味があったのか。

そこまでは深く考えていなかったのだ。


――後から取り込んだのは多分、恋ってやつだろ。


ふと、ノワールの言葉が脳裏を過る。


俺を避けるようになったことも、

変に意識したような態度も、

今まで気にしなかったことを気にし始めたことも、

すべて説明がついてしまう。


そう考えた瞬間、胸の奥が少しだけ落ち着かなくなる。


無意識に、目の前で眠るクローディアスへと視線を向ける。


静かな寝息を立てながら眠るその横顔は、先ほどまで悪夢にうなされていたとは思えないほど穏やかだった。

握られたままの手からは、微かな体温が伝わってくる。


その顔を見ながら、ふと思う。


(クロは知っていたのか……)


俺がなにかティアを怒らせるようなことをしたかと、愚痴に似たものをこぼした時。

なにか察してそうな雰囲気を見せつつも、結局は教えてくれなかった。


呆れたような。

困ったような。

なんとも言えない表情を浮かべながら。


自分で察しろと言わんばかりに、言葉を濁していたのだ。


それに気付いた途端、なんだか急に複雑な気分になる。


鈍感だと言われているようで、

腹立たしさすら覚えた。


これだけ周囲に気付かれていて、自分だけが分かっていなかったとなると、なんとも言えない思いに襲われる。


クローディアスも。

セレナも。


もしかしたらノクスやアステルまで気付いていたのかもしれない。


「……っ」


ほんの少しだけ、顔が熱くなる感覚がした。


ノワールがそんな俺と、どこか気まずそうに視線を下に向けるティアを交互に見た。

どうしたのかと不思議そうな表情を浮かべながら見比べ、

何かに気付いたように目を見開き、

面白いものを見付けたとばかりに、目を細め、口端をにやりと歪めた。


「なんだてめー……。鈍感でもあったのかよ?動きも遅いくせに察しも悪い。っ、あは……、ッ……!あはははっ!」


途端にお腹を抱えて笑い出すノワール。

肩を揺らし、目尻に涙を浮かべ、盛大に笑っていた。

堪えられないとばかりに、けらけらと笑いながら続ける。


「やっば!?ウケんだろこれ!こんだけわかりやすいヤツ相手に気付かないとかどれだけ――」


そこまで言ったところで。


「むーーーーーっ!?!?」


ノワールの言葉が途中で途切れた。

代わりにあげられたのは、ノワールのくぐもった悲鳴のようなもの。


何が起きたのかと思えば、いつの間にかティアがノワールの目の前まで歩み寄っていたのだ。


無表情のまま。

いや、どこか黒い雰囲気を纏わせながら。

無言で片手を突き出して、ノワールの顔面を鷲掴みにしていた。


騒がしく笑い声をあげだしたその口ごと塞ぐように掴むと、窓の向こう側へと押し出そうとしていた。


ノワールの目が見開かれる。


流石に予想外だったのだろう。

まさか窓の外に強引に押し出されるとは思っていなかったらしい。


必死に窓枠に手を伸ばし、がっしりと掴む。

さらに両足まで窓枠へ引っ掛けて、ひたすら「むーっ!?」「むーっ!!」と声にならない悲鳴をあげながら抵抗していた。


窓の外はかなりの高さがある。

落ちれば洒落にならない。


良くて大怪我。

下手をすれば、人間ならまず助からないだろう。


もっとも、ノワールは人間ではない。

呪華だ。

そしてティアと同じならば、心臓()を持たない。


だから落ちたとしても死にはしない。

だがそれでも、大怪我はする。


死ぬことが出来ないということは、また別の苦痛が待っているということだ。


骨が折れ、身体が潰れ、激痛に苛まれても生き続ける。

契約者(マスター)を持たない様子の彼女には、治癒手段も無いのだろう。

時間を掛けて自然に治癒するのを待つしかない。


それはそれで、十分すぎるほどの苦痛だ。


だからこそ。


「むーっ!!むぅうーーっ!!」


ノワールは本気で抵抗していた。


絶対に嫌だと言わんばかりに。

両腕に力を込め、必死に窓枠にしがみ付いている。


そんな様子を見ても、ティアの表情は変わらなかった。

それどころか、どこか冷たくすら感じられた。


いつも通り無表情なのに、機嫌が悪いことだけは伝わってくる。


そして。

ティアは静かに口を開いた。


「私……。うるさくしないでって最初に言ったよね?」


穏やかな声だった。


怒鳴っているわけでもない。

声を荒げてもいない。

けれど確実に怒っている。


だからこそ、余計に怖かった。


途端に、ノワールの動きが止まる。

騒がしく呻き声をあげることもやめ、固まってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。