残された回数
「あと3回……」
小さく呟く。
たったそれだけの回数。
だが、その一つ一つが“死”に直結している。
曖昧な危険ではない。
回数として区切られた、明確な終わり。
残り3度――。
それを使い切れば、俺は確実に死ぬ。
無意識に、首元へと触れる。
刻まれているはずのその証は、見た目こそただの紋様に過ぎない。
だが実際には、命そのものに枷を嵌める楔だ。
しかも厄介なことに、それは自分の意思では制御出来ない。
契約主が命じる分には問題ない。
だが、呪華側が“勝手に”力を使えば、その代償は一方的にこちらへと降りかかる。
拒否も、回避も出来ない。
それは既に身をもって味わっている。
ただ、一方的に命を削られるのだ。
「……随分と、理不尽な話だな」
自嘲気味に低く言葉が零れた。
視線をティアの方へと向ける。
相変わらずタルトを食べ続けており、こちらの視線に気付くと小首を傾げた。
――あれが。
自分の命を削る存在。
そう理解したはずなのに、どこか現実感が薄い。
ただ一つ確かなのは。
あの力が、意図せず使われれば。
その度に、自分の命は確実に削られていくということだけだ。
「……能力、というのは」
思考を振り払うように、口を開く。
「どうやって使うんだ」
真っ直ぐにノクスを見据える。
面白いものでも見るように、ノクスが目を細めた。
「どうやって、ねぇ」
くっと喉の奥で笑うと、ノクスはゆっくりと背を向けた。
そのまま気まぐれのような足取りで歩き出す。
円を描くように。
まるで品定めでもするかのように、レインの周囲をなぞる。
靴音が、静かな食堂にやけに大きく響いた。
「そんなの簡単だよぉ。契約主が命令するだけ。この“証”を通して強く念じつつ呪華に指示を出す。そうすると契約相手の呪華がそれに応じて力を引き出すって仕組み」
「……命令」
「そ。声でもいいし、意識でもいい。要は“使え”って意思が伝わればいい」
言い終えると同時に、ノクスはいつの間にか背後へ回っていた。
軽く体重を預けるように、俺が座っている椅子の背もたれへ手を掛けられる。
「ま!その分ちゃんと扱えれば、……だけどねぇ?」
間近で落とされる声に、わずかな含みが混じる。
「言葉で説明されたところで、すぐに上手くやれるようなものでもないし、実際にやって見せるのが一番早いんだけど~……」
そこで一度、言葉を切られる。
「……?」
なんだ?
言い方が自棄に含みを感じる気がする。
違和感だけが残る不自然な間。
何かを測るような沈黙。
次の瞬間。
ぱっと、空気が切り替わる。
「今は見せられないんだよねぇ!」
先ほどまでの含みをすべて打ち消すような満面の笑みに肩透かしを食う。
場違いなほど明るい声だった。
「いやぁ~、見せてあげたいのは山々だよぉ?でもねぇ、うちのお姫様の能力は夜にしか使えないんだもん。呪華の能力はみんな違うんだけどさぁ、それじゃあ見せたくても見せられないよねぇ」
「な、なるほど……?」
納得したわけではないが、少なくとも今はどうしようもないらしい、ということだけは分かった。
「でしょでしょ?」
満足げに頷いたノクスが、ぱん、と軽く手を打つ。
「ってことで、時間までどうしよっか~」
楽しげに首を傾げ――
「このままここで大人しく待つのもつまんないしさぁ」
にやりと笑みを浮かべた。
「ちょっと街でも見て回ろうよ」
あまりにも気軽な提案だった。
「え、街……?」
思わず聞き返す。
つい先ほどまで、命の話をしていたとは思えないほどの落差。
なによりも、外を自由に歩き回っても良いのか?
「そそ。こんなところにずっといると息が詰まるでしょ~?外の空気でも吸って、気分転換といこうよ。うん、そうと決まればご飯食べ終わり次第出発ね、お坊ちゃん。夜まで時間あるんだからさぁ」
選択の余地など、最初からなかったのだろう。
こうして食事が終わり次第、外へ出ることが決まった。




