口は災いの元
ノワールはゆっくりと見渡して、セタリア以外の俺たち全員を確認する。
「金髪薄鈍クソ野郎と生臭暴力女」
「あ、また生臭って言った!」
「あと犬っころと」
「犬っころって呼ぶな」
「変態野郎、あとちんちくりん」
「ひっどい言い草だねぇ」
「あなただってたいして変わらない背丈でしょうに」
順番に指を差しながら口にされる呼び名は、もはや悪口と大差ない。
ティアは不満そうに頬を膨らませてしまった。
クローディアスのお陰で一度は機嫌を直したものの、再び言われてしまうと流石に気になるらしい。
一方のクローディアスも、あからさまに機嫌が悪そうだった。
俺以外の人に犬扱いされるのは気に入らないのだろう。
ノクスとセレナはあまり気にも留めていないように見えた。
ノクスは面白がるように笑ったまま。
セレナはノワールを見つめながら、静かに指摘していた。
「別に分かりやすかったら何でもいいだろ」
「「良くないっ!!」」
ティアとクローディアスの声が見事に重なった。
二人して勢いよく身を乗り出し、ノワールに詰め寄る。
「あははははっ。息ぴったりだねぇ」
その様子を見て、ノクスが堪えきれずに笑い出した。
「そこの暴力女はともかく、犬っころはいいだろうが。可愛いじゃんかよ。」
ノワールは納得いかないとでも言いたげに眉を顰める。
片手を腰に当て、もう片方の手でクローディアスをもう一度指差した。
「なにより。てめーにピッタリだろーが。夜中でも駆けつけて来やがって。躾の行き届いた番犬かっての」
「うるさい。それ以上犬呼びするんなら怒るぞ」
クローディアスのこめかみに、ぴくりと青筋が浮かぶ。
かろうじて冷静さを保とうとしているが、そろそろ限界が近いのだろう。
握り締めた拳が怒りで震えていた。
そんなクローディアスの様子に気付いていないのか。
もしくは気付いた上でわざと続けているのか。
どちらにせよ、ノワールは悪びれる様子など欠片も無かった。
にんまりと口元に笑みを浮かべて、さらにクローディアスを煽るように言葉を続けた。
「脅しのつもりぃ?くっくっくっ、そんなもん怖くもなんとも……あわわわわ!?」
そこまで言い掛けて、突然ノワールの身体が宙に浮いた。
ぶちり、と。
なにかが切れるような、そんな音が聞こえた気がした。
気付けば、クローディアスが無言のままノワールの身体をひょいと持ち上げていた。
どうやら堪忍袋の緒が切れたらしい。
「やーめーろーーー!?抱き上げるなバカーーーー!?ルーに触れるな高い高いするなーーーー!?」
ノワールが大声で喚き散らしながら、じたばたと手足をばたつかせて暴れる。
だが、びくともしない。
「思ったより子どもだねぇ」
じたばたと暴れるノワールを眺めながら、ノクスが楽しそうに目を細める。
「ですね。襲撃者っていうものだからどんな相手かと思いましたのに」
セレナもどこか拍子抜けしたように頷いた。
二人の視線の先では、クローディアスに持ち上げられたノワールが未だにじたばたと暴れている。
手足をばたつかせて暴れ、隙あらば噛み付こうとしていた。
昨夜は暗闇の中、それも熟睡中に襲われたせいで、得体の知れない脅威に見えていた。
けれど、こうして落ち着いた場所で見ていると、受ける印象はまったく違った。
大鎌を軽々と振るい、明確な殺意をこちらに向けて来ていた暗殺者とはまるで思えない。
今の彼女の姿は、どう見ても駄々をこねる子どもだった。
「やだやだやめろバカーーー!鬼ーー!!悪魔ーーーー!!!」
「誰のせいだと思ってるんだ」
クローディアスが抱き上げたまま、呆れたように返していた。




