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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第四章
128/133

死が日常の場所

廊下に出てみると、ひとつの部屋の前に人だかりが出来ていることに気付いた。

廊下から部屋の中を覗き込みながらも、誰ひとりとして部屋の中に踏み込もうとする様子は無い。


「なにかあったのでしょうか?」


クローディアスが呟く。

隣に立つティアが、眉を顰めた。


「……血のにおい」


その言葉を耳にするなり、俺は反射的に人だかりに向かって駆け出してた。


後ろで、ティアとクローディアスが互いに目を合わせる。

示し合わせたように頷くと、俺の後を追いかけてきた。


そんな俺たちの背中を見送りながら、セレナがふぅっと息を吐いた。


「物騒なことが立て続けに起こりますね……」


「刺激的で退屈しないよねぇ」


「楽しんでいる場合ですか」


呆れたようにセレナが肩を竦めた。


人混みを搔き分け、部屋の中を覗き込む。

そこに広がっていたのは、赤に染まったベッドの上に横たわる、ひとりの子どもの姿だった。


眠っているようにも見えるほどに、穏やかな表情を浮かべていた。


しかし、その子どもの胸元を中心に、深い赤が大きく広がっている。

鋭い刃物で一気に切り裂かれたような、大きな傷痕。


恐らく、眠っている間に襲われたのだろう。


「っ……」


目の前の光景に、息を吞む。


この部屋を覗き込んでいた子どもたちは、こんな凄惨な光景を目の当たりにしても、平然としていた。

顔色ひとつ変えることもない。

驚きも、恐怖もない。

まるで日常の一部を眺めているだけかのように、落ち着き払っていた。


その中の誰かが、ぽつりと呟く。


「連れて行かれちゃった」


その言葉を皮切りに、他の子どもも言葉を続けた。


「金色だったから」

「死神に、連れていかれた」

「次は誰かな」


どの子どもも、淡々とした声音で呟く。


そこでようやく気が付いた。


胸元の赤にばかり意識が向いていたが、横たわる子どももまた、金色の髪をしていた。


つい、先ほど部屋に訪れていた子どもたちが口遊んでいた歌が頭によぎる。


――金の金糸雀、黒い死神のお気に入り。


「死神……?」


隣でティアが不思議そうな表情を浮かべていた。

その場にいなかったティアには、なんのことを言っているのかわからないのだろう。


「また、死神……」


眉を顰めて、俺は小さく呟いた。


「みんな、こんなところに集まってないで、朝食の時間ですよ」


無機質なニンフェアの声が、廊下から響いてきた。


「ここは私が片付けますから、さっさと解散してください」


その声に反応するように、部屋の出入口に集まっていた子どもたちが、左右へと分かれ道を開く。

その間を縫うようにして、ニンフェアが部屋の中へと入ってきた。


俺たちを出迎えた時とと変わらない表情。

変わらない足取り。

変わらない声音。


虚ろとも受け取れるその視線だけが、ベッドの上の亡骸へ向けられた。


子どもたちと同様に、目の前に広がる光景など、まるで見慣れている様子で。

その目には、驚きも悲しみも、憐れみさえも、何も込められていなかった。


「片付けるって……、そんな言い方……」


気付けばそんな言葉が漏れていた。

ニンフェアの視線がこちらへ向く。


(人が死んでいるんだぞ?

 しかも、まだ幼い。小さい子どもが……。

 それなのに、どうして……)


彼女の口振りはまるで、壊れた家具や不要になった道具でも処分するかのようで、不気味に思えた。


寒気がする。

この場所では、人の死さえそんな扱いなのか。

そんな考えが脳裏をよぎった。


「なにか、おかしいことでも?」


ニンフェアが不思議そうに問い返す。


何故こちらがそんな顔をしているのか。

何故そんな言葉を口にしたのか。


理解出来ていない。

そんな顔だった。

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