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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第四章
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金の金糸雀、黒い死神

――その頃。

ティアがクローディアスを連れて行ってしまった後のこと。


ノクスが隣の部屋に面した壁にぴったりと耳を当て、聞き耳を立てていた。


「ノクス」


少し冷めてしまった紅茶を口に運びながら、セレナが呆れたように声を掛ける。


「流石に品性を疑いますよ」


「えー?」


ノクスは壁から離れようともせず、肩を揺らしてくすくすと笑った。


「だって気になるじゃーん」


「気になるからといって盗み聞きをして良い理由にはなりません」


「それはそうだけどさぁ」


反省する様子は皆無だった。


溜め息を吐きながらも、セレナもそれ以上は言わない。

どうせ言ったところで聞かないと分かっているのだろう。


なんとも言えない微妙な視線を向けながら、俺はただその光景を眺めていた。


ふと、部屋の扉がゆっくりと開かれる気配がした。

全員の視線がそちらに集中する。


開いた隙間からひょっこりと顔を覗かせたのは、二人の子どもだった。


どちらも十歳前後だろうか。

見慣れない顔の来訪者に興味を惹かれたのか、好奇心に満ちた目でこちらをじっと見つめている。


「お兄さんたちは新しい使用人候補さんたち?」


「え?」


ノクスがようやく壁から身体を離し、いつもの調子でひらひらと袖を振った。


「ボクたちは違うよ~。ただのお客さん~」


「そうなんだ。ざーんねん」


ノクスの言葉に、子どもは少しだけ肩を落とした。


期待が外れたと言いたげな、軽い落胆だった。

だが、続いて口にされた言葉に、思わず耳を疑う。


「新しい人なら、好きに殺し合いして良いんだよ」


無邪気な声。

けれどその子どもたちが口にする内容は、あまりにも残酷で、幼い子どもが口にするには不釣り合いなものだ。


急激に部屋の空気が冷え込んだ気がした。


「殺し合い、蹴落とし合い、より優れた人が選ばれるんだぁ」


子どもたちは楽しそうに続ける。


残酷さも狂気も感じられない。

ただ無邪気に遊びを楽しむような声。


浮かべられる明るい笑顔が、やけに不気味に思えた。


「……そんなの、おかしいだろ」


無意識のうちに漏れ出た言葉に、子どもたちはきょとんとした顔をするだけだった。

まるで何がおかしいのか、本当に分かっていないと言うように。


そんな俺の様子に、隣からセレナが静かに口を開いた。


「あんまり感情移入しないでください。深淵を覗き続けると、こちらまで呑み込まれてしまう。ここはフィニスの管理下。私たちの常識が通じる場所じゃないんですよ」


セレナの言葉が胸の奥に沈み込む。


彼女の言う通りだ。

こちらの理屈を持ち込むべきじゃない。


頭では理解している。


それでも、すぐに吞み込むことなんて難しかった。


複雑な思いを抱えたまま、子どもたちの前に歩み寄る。

そして腰を落とし、彼らの目線を合わせて声を掛けた。


「君たちは生まれた時からここにいるの?」


俺が問い掛けると、二人は顔を見合わせた。


「そういう子もいるけどねー」


「ほとんどの子は外から連れて来られた子ばっかりだよー?」


「ここで生まれた子は色が薄くって、弱くって、すぐ死んじゃうんだぁ」


「病気になったり、身体が弱かったり、貧弱な子が多いよねー」


まるで雑談でもするように。

笑顔のまま続けられる言葉。


そこには悲しみも憐れみも感じられない。


彼らにとっては、それが当たり前の日常なのだろう。


返す言葉を失ってしまっていると、不意に片方の子どもがこちらを指差した。


「お兄ちゃんも金色なんだから気をつけてね?」


「え?」


「死神に連れて行かれちゃう」


「死神?」


聞き返すと、二人は揃って頷いた。

それが当然のことだと言うように。


「うん」


すると、不意に。


二人の子どもたちは顔を見合わせた。

そして、にこりと笑顔を浮かべ、示し合わせたように声を揃えて歌い始めた。




金の金糸雀、黒い死神のお気に入り

翼をもがれて自由を奪われた哀れな金糸雀

金の金糸雀、黒い死神への貢ぎ物

愛して愛されて

その目にはお互いしか映らない

壊して壊されて

一緒に堕ちよう

地獄までも

どこまでも

底の見えない奈落の向こう側へ

堕ちてしまおう、ふたりきりの世界へと




俺たちが呆然としている間に、子どもたちは身を翻す。


くすくすと、軽やかな笑い声だけが廊下に響き渡った。

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