いつもと違う夢
――暗い。
うまく、息ができない。
肺が押し潰されるように苦しくて、どれだけ必死に空気を求めても、うまく酸素が入ってこない。
首を絞められる。
喉が焼けるように熱い。
最近はあまり見なくなっていたあの夢。
何度も嫌になるほど繰り返し見た、見慣れた悪夢。
暗い。
どこまでも暗い。
すべてが黒一色に塗り潰され、右も左も、上下さえもわからない。
どこまでも深い、冷たい水底に沈められたような感覚。
身体を動かそうとしても動かない。
声を出そうとしても、喉の奥から掠れた息が漏れるだけで、なにも変わらない。
けれど。
ふと、違和感を覚えた。
いつもと違う。
目の前にいたのは、白い髪の少女だった筈。
穢れひとつ無い雪のような白い髪。
鮮血を思わせる赤い瞳。
現実とは想像も出来ないほど無機質な表情で、なにも映していないような目で俺を見据え、俺の首を絞めるティア。
それが、俺がいつも見る悪夢の光景の筈だった。
それなのに。
今、俺の首を絞めているのは、黒い。
周囲の闇に溶け込むほどに深く暗い、漆黒の髪。
ティアと同じ髪型で、紅い瞳で、俺を見下ろしている。
「っ……、リリ、ィ……」
締め上げられる首の痛みに顔を歪めながら、声が漏れた。
掠れた声で、名前を呼ばれたと分かると、目の前の少女の瞳が大きく揺れた。
紅い瞳が見開かれ、その表情が痛々しいほど歪む。
泣きそうな顔。
ぐっときつく噛みしめながらも、震える唇。
まるでなにかに耐えているように。
叫び出したい衝動を押し殺し、胸の奥にある苦しみごと押し込めるように。
見ているだけで胸が苦しくなるほどの表情。
それなのに。
彼女の手は、変わらず俺の首に掛けられたままだった。
「――どう、して」
絞め上げられた喉から、かろうじて声が漏れる。
自分が彼女になにを訊こうとしているのか。
相変わらず分からない。
やっぱり、目の前の少女は、リリィはなにも答えない。
ただ――。
その目元いっぱいに涙を浮かべていた。
今にも零れ落ちそうなほど溜まった雫が、紅い瞳を滲ませる。
悲しみ。
苦しみ。
後悔。
諦め。
そして――懺悔。
言葉では到底表しきれないほどの想いが、ぐちゃぐちゃに絡まり合ったまま涙となって溢れ出しているようだった。
歪んだ紅い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。
助けを求めるように。
許しを乞うように。
なにかを訴えるように。
彼女がなにを思ってこんなことをしているのか、一切分からない。
分からないまま。
俺はただ、その瞳から目を離せなかった。
それほどまでに苦しそうで。
それほどまでに悲しそうで。
まるで、首を絞められているのは俺ではなく、彼女の方なのではないかとさえ思ってしまう。
けれど、それでも。
リリィは俺の首を絞める手を緩めることはなかった。




