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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第四章
123/126

好きなものをあなたにも

案内された部屋は三つ。


どれも隣り合うように並んでおり、

俺とティアが一部屋、

ノクスとセレナが一部屋、

クローディアスが一部屋を使うことになった。


一通り室内を確認した後。


結局、全員が俺たちの部屋へ集まっていた。


二人で使う部屋としては十分すぎるほど広い部屋だ。

だが、五人も集まれば流石に少し窮屈に感じる。

それでもまだ広い方の部屋なのだろう。


黒を基調とした調度品。

必要最低限の家具。

無駄な装飾は一切ない。


普段から掃除が行き届いているのだろう。

埃ひとつ見当たらず、不快感はないのだが、どこか落ち着かない空間だった。


窓際には小さなテーブルが置かれている。


その上には、料理の乗った皿がいくつも並べられた。

施設の厨房を借りて、ノクスが手早く作った夕食だ。

最近は慣れ親しんだ、どれもこれも美味しそうな料理。


「はいはい、お待たせー」


最後の皿を置きながら、ノクスが声を上げた。


「こんなところでまで食事を用意してくれてありがとな」


素直に礼を言うと、皿を並べていたノクスの手がぴたりと止まった。

呆気に取られたような顔を浮かべながら、ゆっくりとこちらを見る。


なにか変なことでも言っただろうか。

そう思いながら首を傾げていると、ノクスが口元に笑みを浮かべつつ、わざとらしく眉を顰めた。


「なぁに? お礼なんて気持ち悪い」


「ひどいなおい!?」


即座に返すと、ノクスがけらけらと笑い出す。


「いやだってさぁ。急に殊勝なこと言い出すから」


言いながらノクスは椅子を引き、向かいの席に腰を下ろす。

そのままフォークを手に取り、行儀悪く頬杖をつきながら料理を口へと運ぶ。


「気付いていないのかもしれないけどさぁ、お坊ちゃんはボクやお姫様には心を開いていないんだよ。そりゃあ一般的な貴族と違って偉ぶったりもしない。貴族なのに貴族らしくない。ボクたちのこと、確かに信頼はしてくれてると思うよ。でも、完全に信用はしていない。だからお礼なんて、言わないんだよ」


「そんなこと……」


「あるっしょー?」


思わず否定しかけると、即座に遮られてしまった。

ノクスがフォークの先をこちらに向ける。


「お坊ちゃん、基本的に人に頼るのヘッタクソなんだよねぇ。何かしてもらったら自分で返そうとする。借りを作りたがらない。迷惑も掛けたがらない」


そこまで言うと、目を細め、皿の上へとフォークを静かに突き立てる。


「ずーーーっとお坊ちゃんと一緒にいる黒犬くんと、仕事以外だとこっちの話なんか聞いてくれない黒ユリちゃんは別だけどねぇ」


ノクスがそう締めくくると、ティアが小さく首を傾げた。


「私、お話ちゃんと聞いてるよ?」


隣に座っていたティアが、タルトにフォークを突き刺しながら首を傾げる。


相変わらず肉やスープなどには一切目もくれず、真っ先にデザートへと手を伸ばしている。

そうなることを見越して、ノクスは最初から彼女の分だけ大きめのタルトを用意していた。


「聞いてるだけで、行動を変えないのは聞いていないのと一緒です」


ノクスとティアに挟まれる形で座っているセレナが口を挟む。

目を伏せたまま、綺麗な所作で一切れ分の肉を口に運んでいた。


「むぅ……。セレナの意地悪っ」


唇を尖らせながら、ティアが不満げに呟く。


それでもフォークを使い、タルトを一口分だけ切り分けると、そのまま口に入れた。


以前の彼女なら考えられない姿だった。

素手で掴み取り、口いっぱいに頬張り、手や口元がぐちゃぐちゃに汚れても気にもしていなかった。

それなのに、ここ最近のティアは、出された食器を使って食事をするようになった。


俺の見ていないところでセレナに教えを乞い、少しずつ食器の使い方を教わっているらしい。


タルトを口に含んだ瞬間、ティアの表情がぱっと明るくなる。


そしてすぐにもう一口分、今度は先ほどよりも大きめに、タルトを切り分ける。

それをフォークに突き刺して、こちらに差し出して来た。


「ん!」


食べて、と言わんばかりの短い声。


「ちょっ……!まだ食べてる!」


当然のように差し出されて、思わず声が裏返ってしまった。


メインも食べ終わっていないのに、デザートに手を出すなんて考えられない。

おまけにそのフォークは、ティアが口を付けた後のものだ。


意識するなと言われる方が無理だった。


ティアは俺の焦った様子などお構い無しに、さらに突き出してくる。


「これ、きっとレインの好きな味。だから食べて」


「いや、だからそういう問題じゃなくて……っ」


言いかけて、途中で言葉が詰まる。


なにが問題なの?と言いたげな、真っ直ぐな目。


こうなっては一から百まで懇切丁寧に説明しなければ理解してくれないだろう。

しかも、説明したところでこの行動を止めてくれるとは思えない。


やりたいからやる。

共有したいから食べて欲しい。


それだけの純粋な理由で動いているのだから。


「っ……」


観念して、口を開けた。


口の中へとタルトが入れられる。

途端に、爽やかなレモンの香りと、酸味が口の中に広がった。


「どう?」


ティアが小首を傾げながら問い掛けてくる。


「たしかに……。ティアの言う通りだよ」


少し気恥ずかしい気持ちに襲われながら、素直な感想を口にした。

途端に、ティアが嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「でしょ!?」


それだけ言うと、満足したようで自分の食事へと戻ってしまう。

そんな彼女の様子を見て、クローディアスがひとこと、ぽつりと呟いた。


「そういうとこだろ……」

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