愉悦の会議
「グラオザームのバカが死んだんだってー?」
くすくすと、軽やかな笑い声が室内に広がった。
まるで硬い石の床に小さな鈴を落としたみたいに、よく響く高い声音だった。
薄暗い室内。
灯りは天井近くにひとつ、そして壁際に等間隔で揺れる燭台がいくつかあるだけ。
燭台の炎がわずかに揺らめき、円形の大きなテーブルの縁をぼんやりと照らし出していた。
中央に据えられたそのテーブルを囲むように、等間隔でいくつかの椅子が並んでいる。
その一つの椅子の傍らで、少女が肘をつきながら身を乗り出していた。
高い位置で左右に結ばれた薄緑の髪が、笑うたびにふわりと揺れる。
濃い緑の瞳は楽しげに細められ、口元には悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。
肩が小さく跳ねるたび、黒い大きなリボンが遅れて揺れた。
「それ本当?きゃははは!うっけるー!あいつあんなに偉そうにしてたのにさぁ、あっさりやられたわけぇ?」
その向こう側では、他に2人の人影が椅子に腰掛けている。
どちらも少女と同じ意匠のローブを纏っていた。
「せっかくの道具も使いこなせないんだ。こっちの指示も無視して、勝手な真似をして。当然の結果だろう」
淡々とした声が続く。
男はゆっくりと眼鏡の中央を指先で押し上げた。
髪よりもさらに暗い色をした瞳が、紺色の前髪の奥で覗く。
「シオンとシラン。二つも呪華を無駄にして。勿体無いことをする」
「生真面目なアルビオンや、口うるさいフロレシアに気付かれないように確保した道具だってのにさ。結果も残さずに、役立たずでしかないよね」
その隣で、クセのある黒髪を揺らしながら、青と金の瞳の少年が肩を竦めた。
椅子の背もたれに寄りかかり、頭の後ろで腕を組むと、そのまま行儀悪くテーブルの上へ両足を組み上げている。
「過ぎたことをいつまでもぼやいても仕方ない」
紺色の男が目を伏せ、大きく溜め息をこぼした。
「なにより、あのまま勝手なことされて、鍵も器も破壊された可能性もあったんだ。あのバカが死んでくれて助かったよ」
「そんなことよりー」
少女はどうでもいいとばかりに言い捨てると、椅子から離れ、壁際へと歩き出した。
その先には、朱殷色の髪を持つ少年が、静かに立っている。
背筋を伸ばし、視線を逸らさず、ただ命令を待つように。
使用人のような立ち姿をしていた。
少女は少年の目の前で足を止めると、わざとらしく首を傾け、少年の顔を覗き込む。
「リコリスって言ったっけ?あんたの名前。ま、どうでもいいや。あんたも所詮は道具なんだから」
興味無さげにさらりと言い切る。
覗き込むのをやめると、少女はくるりと踵を返し、リコリスに背を向けたまま片手をひらひらと振った。
そのまま数歩だけ歩みを進め、ふと顔だけをリコリスへと向ける。
「それで?ちゃんと仕事こなして来てくれたの?」
「契約者の指示通り、彼らに揺さぶりは掛けた。想定外の事態も起きたけど、ちゃんと対処も済ませたよ」
表情ひとつ変えないまま、リコリスが答える。
その返答に、少女は満足そうに目を細めた。
少女は紺色の髪の男へと勢いよく向き直ると、そのまま軽やかな足取りでテーブルへと駆け寄った。
勢いのまま両手をテーブルに突き、身を乗り出す。
その拍子に、薄緑の髪がふわりと揺れ、黒いリボンが遅れて跳ねた。
「それじゃあさ!もう少しだけ待ったら好きに遊んでも良いよね?」
瞳をきらきらとさせながら、少女は楽しげに笑う。
「あと少しなんでしょ?観察観察って散々おあずけくらってたんだからさー」
「……無駄死にさえしなければ構わない。勝手にしろ」
紺色の髪の男は、視線だけを上げると、淡々と答える。
その返事を聞いた瞬間、少女はぱっと表情を明るくした。
「あはは、だーいじょうぶ。どっかのバカと違って、死ぬにしても仕事だけはちゃんとやったげる」




