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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第三章
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愛されない人形

「入れ、物……?何を言って……」


言い掛けて、途中で言葉が途切れてしまう。

カーディナの屋敷の禁書庫で見付けた1枚の紙が、不意に脳裏を掠めた。


赤文字で書かれていた“器候補”という文字。


『愛されない哀れな人形!愛されたくとも必要とすらされない!無意味で無価値な人形!それがあなた。レイン・ニグラ・リリウム・カーディーー』


「うるさいっ!!!」


少女の声を、叫ぶような声が遮った。


直前まで、俺のすぐ後ろで震えていたはずのティア。

何も聞きたくないと身を縮め、ただ袖を掴んでいた彼女が、

俺の目の前へと飛び出していた。


泣き腫らした顔のまま。

目元に涙を溢れさせたまま。


両手に双剣を握り締め、低く踏み込み、少女の胴体を切り裂いていた。


切り裂かれた瞬間、少女は心底驚いた表情を浮かべる。

すぐにふわりと、笑みを浮かべる。


先ほどまでの歪んだ嘲笑ではない。

どこか静かで、優しくさえ見える柔らかな笑み。


『……予言するわ。あなたはまた、同じことを繰り返す。大事な人をたくさん傷付けて不幸にさせる』


少女はゆっくりと、言葉を続ける。


『ふふふ。せいぜい足掻いて悩んで、自らの罪に苦しみなさい』


言い切ると同時に、少女の姿が塵となって崩れていく。

血も流さず、肉片すらも残さず。

その顔には笑みを浮かべたまま。


最初から何も無かったかのように、消えていってしまった。



「レイン……!大丈夫!?」


少女が消え去った直後、ティアが弾かれたようにこちらへと振り返った。


先ほどまで張り詰めていた殺気はもうどこにも残っていない。

代わりにそこにあったのは、ただこちらを心配する表情だけだった。


両手に握られていた双剣が、淡い光を帯びる。

刃は形を保てなくなったように崩れていった。


白と黒の花弁。


それぞれの刃と同じ色をした花弁が、ふわりと散っていった。


「怪我してない!?どこか痛いところある!?」


返事を待つよりも先に、ティアが俺の身体へ手を伸ばしてきた。


肩に触れ、腕を掴み、胸元へと移っていく。

本当に無事なのか、自分の手で確かめなければ安心できないと、身体のあちこちを触れていた。


ついさっきまで、自分自身のことで涙を流していた筈なのに。

今はそんなことよりもこちらの方が大事だと言わんばかりに、俺のことを気にしている。


「あ……、あぁ……。俺は大丈夫」


ティアの頬にそっと触れながら、どうにか声を返した。


「けど、おまえこそもう大丈夫なのか!?」


「大、丈夫……、たぶん……。きっと……」


返ってきた声は弱々しく、どこか頼りない。

自分で口にしながらも、本当に大丈夫なのかと、自分の言葉に自信が無さげだった。


「でも、早くここから出たい。頭、痛い……。ここにいると、なにも考えたくなくなってくの……」


ティアは苦しそうに眉を寄せ、弱々しく訴えた。


そのまま俺の胸元に額を預けてくる。

無意識なのか、ティアは俺の服をぎゅっと掴んでいた。


「……分かった。早くここを出よう」


そう答えながら、そっとティアの背へ手を回す。

彼女の肩から、ほんの少しだけ力が抜けた気がした。


そんな、静かな時間が流れ掛けたその時。


突如、地面が大きく跳ねるように揺れた。

あまりにも大きな揺れに、足元が浮き上がったような錯覚にさえ襲われる。


「っ――!?」


ティアが反射的に強くしがみついてきた。

胸元を掴む指先に、一気に力が込められる。


「ティア……!」


俺はすぐに彼女の肩へ回していた腕に力を込め直す。


倒れてしまわないように。

離れてしまわないように。


次の瞬間――


パリンッ!!


まるで硝子が砕け散るような、甲高い音が響き渡った。


視界の端から亀裂が走る。

空や壁、そして地面にまで。


この空間そのものが耐え切れず、崩れ始めるように。


「なに……!?なにが起きてるの?」


周囲に視線を巡らせながら、ティアが切迫した声を上げる。


なにが起きているかなんて、分かる筈もない。

それでも、ここが安全な場所で無くなっていることだけは、嫌でも理解出来てしまう。


このまま空間が完全に裂けてしまえば、どうなる。

巻き込まれた先に何が待っているのかすら、想像出来ない。


もしかしたら元居た場所へと戻れるのかもしれない。


目が覚める前の、俺たちの居場所へ。

ノクスやセレナ、アステル。

そして、クローディアスがいる屋敷へと。


だけど、帰れるという保証も確信も無い。


そんな状態で身を任せるのは、あまりにも危険すぎる。


「ここを離れるぞ!」


言い切ると同時に、ティアの手を強く引いた。


「うん……!」


ティアが力強く頷く。


揺れの収まる気配の無い庭園の中、来た道を戻るように駆け出した。

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