表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第三章
109/118

私はあなた。あなたは私

最初に目に入ってきたのは、赤と黒だった。


並ぶように咲いた薔薇が、入口から奥へと続いている。

鮮やかな筈なのに、黒が混じっているせいだろうか。

どこか暗く近寄りがたい雰囲気さえ感じられた。


その奥へ視線を滑らせると、今度は紫陽花が広がっていた。


淡い青や紫が優しく揺れている。


さらに足元へ目を落とすと、水色の絨毯のように勿忘草(わすれなぐさ)が一面に咲いていた。

その隙間から、鈴蘭と白ユリが点々と顔を覗かせている。


赤と黒のはっきりとした色合いからは相反した、淡く優しい色。


周囲を囲む硝子にはアイビーが這うように伸び、天井からはエアプランツがまばらに吊り下げられていた。


やがて、室内庭園の最奥へと辿り着いた。


開けた空間の中央に置かれた黒いグランドピアノ。

その前に、ひとりの少女が座っていた。


隣には、赤いリボンを巻かれた黒ネコのぬいぐるみが置いてある。

少女の身体に寄り添うように、座っていた。


細い指先が鍵盤の上を滑る。


優しく、静かで。

寂しささえも感じる旋律を奏でていた。


その音に引き寄せられるみたいに、一歩踏み出す。


じゃり、と足元の小石を踏む音が響いた。


しまった、と思うより早く。

少女の指が、ぴたりと止まった。


黒く長い髪を揺らしながら、少女がこちらを振り返った。


『やっと来た』


少女の水色の瞳が細められる。

澄み切った優しい色をしているのに、その目はどこか冷たく、なにを考えているのか読めない。

口元には柔らかい笑みが浮かべられていた。


少女はゆっくりと鍵盤から手を離すと、身体ごとこちらへと向き直る。


その流れの途中で、隣に置かれていた黒ネコのぬいぐるみへ手を伸ばした。

赤いリボンを揺らしながら、そっと抱き上げると膝の上へと乗せる。


彼女の容姿を目にした途端、隣に立つティアが息を呑んだ。


黒と白の髪。

紅と蒼の瞳。

ティアとは正反対の色。


ティアよりもずっと幼い。

少女と呼ぶにはまだ早いとすら思える容姿。

前髪もティアのように片目を隠してはいないけれど。


それでも、ティアの面影を感じられる容姿をしているのだから。


「わた、し……?」


か細い声が漏れる。

戸惑いを隠せないティアの様子を見て、少女がほんの少しだけ目を細め、くすりと笑った。


『ふふっ、初めまして、かな?私』


ティアに対して掛けられた言葉。

その呼び方に、ティアが怪訝そうに眉を顰める。


目の前の少女は、自分へ向けて話しているはずなのに、“私”とティアのことを呼んでいる。

まるで自分自身を指しているかのようで、あまりにも不自然だ。


警戒心を隠そうともせず、ティアが口を開いた。


「あなたは……、いったい誰なの」


『私?』


少女が小首を傾げる。


『私はあなた。あなたは私』


少女は続ける。

淡々と、楽しげに目を細めながら。


『黒に染まる前の、あなた()だよ』


なにを言われているのかわからないと、ティアがその言葉を繰り返す。


「黒に染まる前の……、私……?」


少女はこくりと頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ