起きない2人
バタバタバタ、と。
廊下を叩きつけるような足音が響いたかと思った瞬間、扉が勢い良くクローディアスによって押し開けられた。
「おい!レイン様とティアが目を覚まさないとはどういうことだ!?」
鋭い声が部屋の空気を切り裂いた。
開かれた扉の先は、レインとティアに与えられた部屋。
その部屋には既に先客がいた。
レインとティアの様子を確認しに来ていたノクスとセレナだ。
2人は同時に扉の方へと視線を向け、クローディアスの姿を捉える。
「やれやれ。随分と騒がしい登場だねぇ」
ノクスが肩を竦めるように息を吐き、口元に薄い笑みを浮かべた。
「保護者の耳はほんとに良いことで」
わざとらしく、くっくっと肩を揺らしながら、どこか面白がるような調子で続ける。
「それとも……、ただの過保護かなぁ?お坊ちゃんが大事で大事で仕方ないって感じでさぁ」
その言葉にクローディアスの眉がぴくりと動くが、今はそれに噛み付く余裕も無い。
セレナはそんなやり取りには目もくれず、ただクローディアスをまっすぐ見据えていた。
あくまでも冷静に、落ち着いて状況を見据えていた。
「見ての通りですよ。2人とも眠ったまま、起きる気配が無い」
セレナがそう言いながら、視線をベッドの上へと移す。
その先にあるのは、ティアに腕枕をするような姿勢で寄り添いながら、眠り続けるレインとティアの姿だった。
呼吸は穏やかなところから察するに、ただ深い眠りに落ちているだけのように見える。
だが、その周囲にだけ、不自然に彼岸花が咲き誇っていた。
赤い花弁が広がり、眠る2人を囲むように揺れている。
「昨日の疲れが残っててっきり寝過ごしているだけかと思いましたけど、あまりにも遅い。悪いとは思いましたけど、部屋に入ってみたらこの通り」
「なんだ、これ……」
絞り出すようにクローディアスが声を漏らす。
怒気は既に消え、代わりに困惑と警戒、そして驚愕が混じっていた。
視線は部屋の一点に釘付けになったまま、動かない。
「黒犬くん、そういえばカーディナの屋敷で呪華に会ったって言ってたよねぇ」
ノクスが軽い調子で言葉を投げる。
だがその声音には、先ほどまでの冗談めいた色は薄い。
「その時になにかされたんじゃない?」
「そんなわけ……」
反射的に否定しかけて、クローディアスは言葉を飲み込んだ。
脳裏をよぎったのは、レインの着替えを手伝った時に見付けた花弁のようなもの。
レインの髪の毛に絡まっていた、赤く細い花弁。
その沈黙を、ノクスは見逃さなかった。
意地悪く、目を細めて口角をつり上げた。
「……どうやら、心当たりがあるようだねぇ」




