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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第三章
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呪華の誕生記録

「これが禁書庫から持ち出した書類、か」


机の上に置かれた紙束を見下ろしながら、アステルが静かに呟く。


「はい。呪華に見付かって、内容までは確認出来ていませんが」

「いや、よくやった」


クローディアスの報告に、アステルは短く返す。


「これは、俺たちが探していた情報のようだ」


アステルが紙束を手に取り、呟いた。

ぱらぱらと紙を捲る音を響かせながら、内容に目を通す。

一度中身を流し見して、すぐに全員に見えるように、机の上へ広げて見せた。


その紙面に並んでいたのは、ただの記録ではなかった。


1人の人間を用いて“呪華”と呼ばれる兵器を生み出すための計画書。


絶望。

悲哀。

憤怒。

怨恨。


人間が抱く、ありとあらゆる負の感情を極限まで引き出して、心を壊し、呪物へと変質させる。

あまりにも歪な、胸糞悪い儀式の方法が記されていた。


まるで人間ではなく、素材でも扱うかのように。


「なんだよ……、これ」


思わず零れた声は、自分でも驚くほど掠れていた。

部屋の空気が、重く沈む。


誰もすぐには言葉を発せない。

記されている内容が、あまりにも悍ましかったからだ。


「……狂ってる」


ぽつりと、セレナが呟く。


「これを人間が……?正気とは思えません」


感情を大きく表に出さない彼女にしては珍しく、眉を顰め、その声音にははっきりとした嫌悪が滲んでいた。


紙面へ視線を落とす。

記載されている日付は、およそ400年も前。


あまりにも古い記録だった。

紙の端は茶色く変色し、長い年月を経たことを物語っている。

インクもところどころ掠れ、滲んでいた。

それでも、内容を読み取るには十分だった。


制御不能に陥った対象は暴走。

その末に、封印措置を実施。


さらに、その際に発生した残滓が各地へ拡散。

それが原因となり、後に“呪華”と呼ばれる存在が各地で出現し始めた。


被害状況。

死者数。

崩壊した街の名前。


それらの被害記録に関する、当時の新聞記事の切り抜きまで添付されていた。

その惨状が生々しく、事細かに残されている。


「400年前……。ちょうど4大公爵家が作られた年だな」


アステルが重い口を開く。


「こんな話、アルビオンにも伝わっていなかったと思いますが……」


セレナが信じられないものを見るように、資料へ目を落としていた。


「あぁ。俺も知らない。もしかしたら父上はご存知かもしれないが……、いや、それは無いか」


アステルは途中で自分の考えを打ち消すように、小さく首を振る。


「次期当主候補の俺にまで教えてくださらないということは、そういうことだろう」


その声音には、僅かな皮肉が混じっていた。


隠されている。

しかも、カーディナによって、徹底的に。


呪華の発生した原因。

こんな重大な情報、他の公爵家に知らされていない方がおかしい。


4大公爵家の次代を担う立場であるアステルですら知らなかったのだ。

この情報がどれほど秘匿されていたかが分かる。


「確かその年って、唯一の公爵家であったカーディナに賊が入り、大量虐殺が行われた頃の年では……?弱まったカーディナの力を補うように、王家がその時力を付けていた家を公爵家として格上げしたとか」


クローディアスが記憶を辿るように口を開く。


「俺たちもそう聞いている」


アステルが頷いた。


それは、この国では比較的有名な話だ。


約400年前。

当時、唯一の公爵家だったカーディナは大規模な襲撃を受け、多くの人間が命を落とした。

結果として勢力は大きく衰退。

その穴を埋めるため、王家が有力貴族を新たな公爵家へ引き上げた。


それが、現在の4大公爵家の始まり。


少なくとも、表向きは。


「けどさぁ、もしこれが本当なら……」


ノクスが紙束を指先で叩く。


「その“大量虐殺”自体、呪華絡みだった可能性あるよねぇ?」


ノクスがそう考えるのも自然な流れかもしれない。


始まりの呪華としての制作実験が失敗した時期。

大量虐殺の時期。

どちらもほぼ同じ時期に起きているのだから。


「なんだかきな臭くなってきたねぇ」


ノクスが楽しそうに目を細める。

部屋を満たす重苦しい空気とは不釣り合いなほど、口元は愉快そうに歪んでいた。


「あのカーディナに入り込んでいた呪華のことも気になるな。カーディナはまだなにか隠しているのか?そもそもなんで呪華が入り込んでいるんだ?俺たちじゃあるまいし」


アステルの言葉に、俺たちに声を掛け、追い掛けて来たあの少年の姿が浮かぶ。


朱殷(しゅあん)の髪。

黒いコート。

そして、感情の見えない暗い瞳。


あれは、本当に野良だったのだろうか?


思い返せば思い返すほど、違和感ばかりが残る。


あまりにも堂々とした佇まい。

偶然迷い込んだ野良、というよりも、まるで最初からそこにいることを許されているような余裕すらあった気がする。


(流石に考え過ぎか……?)


俺たちを見付けても、声を掛けてきただけ。

こちらが逃げる為にと攻撃を仕掛けても、避けるだけで反撃すらしてこなかった。


その後もそうだ。

逃げる俺たちを、ただゆったりとした足取りで追ってきていただけ。


それが違和感を感じる理由なのかもしれないが。


「考えてもわからんな」


アステルが小さく息を吐く。

張り詰めていた空気を切るように、そこで一度話を区切った。


これ以上は推測の域を出ない。

そう判断したのだろう。


机の上に広げられていた紙束を丁寧にまとめ直す。


「取り敢えず今回はご苦労だった。こっちでもいろいろ調べてみるよ。なにか進展があったら知らせる」

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