影が愛した光、光が抱いた影の日常 ~if byシンルート~
朝。
薄いカーテン越しに柔らかな光が差し込み、
公爵邸の一室は穏やかな気配に満ちていた。
リディアが目を覚ますと、
すでに隣には夫が座っていた。
シンは静かな微笑を浮かべて
「おはようございます、リディア様」
と、変わらない言葉をかけてくれる。
けれど――
夫婦になってからの“その言い方”には、
昔にはなかった甘さが滲んでいた。
「……起こしてくれればいいのに。
一緒に朝を迎えたいんだけど?」
言うと、シンは困ったように目を伏せ、
けれどすこしだけ頬が緩む。
「寝顔が……好きなんです。
起こしてしまうのが、惜しくて」
「……もう。そういうの……ずるいよ」
胸の奥がじんわり温かくなる。
シンにとって“光”はずっと自分だけだった。
でも――今はリディアも
“影を照らすことができる唯一の存在”でいたい。
⸻
朝の政務。
書類に目を通しながら、
リディアは時おり横を見る。
そこには、変わらず静かに控えるシン。
侍従としての姿。
護衛としての気配。
そして、夫としての落ち着いた眼差し。
三つが自然に融け合い、
彼を“シン”という唯一の存在にしている。
「……何かあれば言ってください。
すべて、整えておきます」
「うん。でも……隣にいてくれるだけで十分」
その言葉に、シンはふっと口元を緩め、
胸に手を当てた。
「……本当に。
僕は、リディア様に救われ続けています」
⸻
夕暮れ。
庭のベンチで二人が並んで座る時間は、
忙しい日々の中で最も大切なひとときだった。
オレンジ色の光のなかで、
リディアが髪を梳かれる。
「今日も……とても綺麗です」
「シンが毎日世話してくれるからだよ。ありがとう」
「――ずっと触れていたい」
シンがそう言う時、
その声音は淡々としているのに、
どこか熱を帯びている。
リディアは照れながらも、
そっとシンの手に触れる。
「……そんなふうに言われたら、離れられなくなるよ」
「離れるつもりなどありません」
シンは、当たり前のように言う。
「僕の世界には……
リディア様しかいませんから」
胸の奥が、甘く震える。
⸻
夜。
「シン、いつもありがとう。
本当に……幸せだよ」
その瞬間。
シンの瞳がかすかに揺れた。
黒い湖に、柔らかな光が落ちたように。
「……僕のほうこそ。
あなたがいてくれるから、生きていられる」
静かに重なる視線。
影と光。
どちらが欠けても成り立たない夫婦。
シンはリディアの手を取り、
頬へそっと触れさせた。
「これからも……生涯。
あなたの傍にいさせてください」
「……うん。
私も、あなたと一緒に歩くよ。どこまでも」
その夜。
公爵邸に灯る二つの影は――
誰よりも穏やかで、
誰よりも深く愛し合っていた。
誤字脱字の修正いれました(>_<)ごめんなさい




