銀の妃と蒼の王子、狂おしいほどの蜜月
結婚式から数日。
王宮は祝福に満ち、街は連日お祭り騒ぎだった。
けれど――
その中心にいる第二王子アイキムは、
そんな外の喧騒など一切気にしていなかった。
彼の世界には、
たったひとり――
“リディア”だけ が存在していた。
王子妃となったリディアは、
政務の補佐や来賓の応対で忙しいはずだったが、
アイキムは常にその傍にいて、
一瞬たりとも視線を離そうとしなかった。
「リディア。……こっちを向いて」
控室で招待客リストに目を通していたリディアが、
ふっと顔を上げる。
「今、作業中だよ?アイキム」
「知っている。でも……一秒だけでいい。
君の瞳を見ないと、落ち着かない」
呆れたように笑いながら、
リディアは小さく首を傾げた。
「ちゃんと仕事して」
「リディアが隣にいるなら、何でもできる。
……でも、視線は欲しい」
その声音はあまりにも甘くて、
けれど底の方には“熱”を隠しもしない。
政務の間でさえ、
リディアの手をそっと握り続けている。
誰かが部屋へ入ってこようものなら、
アイキムは一瞬でその手を離すけれど、
指先に残る温度は決して逃さない。
「……ずっと二人きりでいたいんだ、リディア」
「だめ。忙しいんだから」
「わかっている。
でも――
“二人きり”を邪魔されるたびに胸が焼けるほど苦しい」
彼の瞳は深く、とろけるような蒼。
そこに映るのは、リディアだけ。
⸻
ある夜。
王宮の廊下でリディアが侍女と談話している姿を捉えると、
アイキムは迷いなく彼女の手首を取り、
そのまま自室へ連れていこうとする。
「ちょ、アイキム!?話が途中――」
「後でいい。
今は俺が、君を必要としている」
「っ……」
侍女たちは顔を真っ赤にして道をあけた。
部屋の中へ入ると、
アイキムはリディアを抱きしめ深く口付けた。
「まっ、まってまって!もう!!」
「……はぁ
…生き返る」
リディアは思わず笑ってしまう。
「アイキム、ほんとに重いよ」
「知ってる。
君が思う以上に、ずっと昔から狂っている」
冗談めかした声なのに、
その奥にあるものは本物だ。
⸻
そして――
最近、アイキムは“ある言葉”を頻繁に口にしていた。
「君との子どもが欲しい。」
リディアは頬を染めながら反論する。
「まだ早いよ、アイキム」
「早くなんかない。
君に似た銀の髪の子か、
僕に似た蒼い瞳の子か……
想像しただけで胸が苦しくなる」
「そんな真顔で言わないでよ……!」
「真剣だよ、ずっと。
リディアが欲しいんだ。
全部――未来も、名前も、時間も」
その声音は甘すぎて、
なのに底が見えないほど深い。
リディアは静かに笑った。
この“重すぎる愛”を、
今はもう拒む気になれない。
「……いつかね。
その未来がくるといいね」
アイキムは息を吸い、
柔らかな声で囁く。
「必ず来る。
君が僕の隣にいる限り――
どんな未来でも、手に入れる」
その瞳に宿る光は、
王子としての気品でも、
英雄への敬意でもない。
ただひたすら、
“リディアただひとりを愛し尽くす狂気” だった。
リディアはその胸に抱かれながら思う。
――こんなにも愛されるのは、
少しだけ、くすぐったい。
けれど幸せだと、
胸の奥がそっと教えてくれる。




