祝福の鐘の裏側で揺れる感情たち
大聖堂の中央で、リディアとアイキムが永遠の誓いを交わす。
その純白の光景を見届ける参列者席では――
それぞれの想いが、静かに、あるいは激しく渦を巻いていた。
◆ヒキャル
公爵家の騎士として最前列に座る青年は、誇らしさと苦さの狭間にいた。
リディアを見上げる瞳は一瞬揺れ、すぐに笑みに変わる。
「……良かった。
幸せそうだ。」
その表情はあまりにも優しく、そして切なかった。
胸に刺さる痛みを押し隠し、騎士としての顔で前を向く。
誰よりも近くで、誰よりも守ってきた少女。
その幸せを祝福しながら――
それでも、胸の奥の熱は消せなかった。
◆貴公子クライド
腕を組み、
深々と息を吸い、盛大にため息をついた。
(祝勝会で酔っ払いに絡まれていなければ―
リディア嬢を攫って、
誰にも触れさせない部屋に閉じ込め……
いや、落ち着け…
あーあ…旅にでもでようかな…)
悔しさを隠す気ゼロの顔。
未練が滲む目で、銀の髪の花嫁を見つめる。
だがその瞳の奥には、生還できた安堵も微かに宿っていた。
あの戦場、死の淵から戻れたのだから。
「……綺麗だな、リディア嬢。」
◆タロウ
隣に座るルクレツィアへ、めちゃくちゃ幸せそうな笑顔で手を添えた。
「次は俺とルクレツィアさんだね♡」
「ばっ、バカ!式に集中して!」
その周囲だけ、ほわほわと恋の空気が漂っている。
二人の未来は、誰が見ても“正規ルート”だった。
◆シン
ただひとり――
表情が“死んでいる”と言っていいほど静かだった。
まるで祝福の光だけが、彼に届かない世界のように。
黒く深い瞳は、ただ新婦の姿だけを追い続けていた。
(……リディア様……
どうして……どうして、僕じゃない……)
声にはならない。
涙も流さない。
だけど、その目の奥で揺れる“泥のような闇”だけが、
確かにそこに存在していた。
◇◇
そして――
誰も知らない高次の世界では、二柱が結婚式を眺めながら呑気に会話していた。
『今回は 世界、壊れずに済んだね』
『いやぁ、勇者くん危なかったね』
『で、どうする? もう一回リセットして遊ぶ?』
『んー……飽きたし、次は“回帰系”で新世界つくろっか』
『じゃ、この魂まとめて次へポイッとしとくわー!』
◇◇
祝福の鐘が満ちる大聖堂。
花弁が舞い、光が揺れ、世界は眩しく輝いていた。




