乞い願う恋。
タロウ視点
魔王を倒した日のことを、俺はたまに思い返す。
あのとき、世界を救ったとか、使命とか、そういうの考える余裕は一切なかった。
ただ――
「生きて帰りたい」
「日本に帰りたい」
そんな願いだけで必死だった。
だけど、あの祝勝会の夜。
視界に飛び込んできた金髪の美女――
ルクレツィア伯爵令嬢。
あの瞬間、胸にズドーン!!って、雷みたいなものが落ちた。
(なにこれ……まじで……息できない……
てか無理……超タイプ……!!)
ゲームも知らない俺が“運命”なんて言葉を使うなんて笑っちゃうけど、
あれはどう考えても一目惚れだった。
超どタイプ。ボンキュッボンでエロい。
緑の瞳に吸い込まれるみたいで。
他のその他大勢とは別格の美しさ。
あれ、生き物として反則でしょ。
俺……生まれて初めて、
「恋ってこういうことなんだ」
って、身体の血が全部入れ替わるみたいに感じた。
でも彼女はクールで、聖女みたいで、どこか遠くて。
声をかけるだけで口の中がカラッカラになった。
(あぁぁぁぁ……俺、絶対挙動不審だぁぁ……)
でも、それでも――
“勇者としてじゃなくただの男として”
彼女に会いたかった。
祝勝会の翌朝。
俺は全力疾走で王国騎士団に突っ込んでいって、
恋愛相談なんかで大真面目に作戦会議してもらった。
「花束は必須だ!」
「宝石も送れ!瞳の色の宝石は本気の証!」
「デートのカウントダウン……天才かお前!!」
……なんで国の最強戦力が恋愛応援しとんねん、ってツッコミは置いといて。
でも、あの人たちは“戦友”だったから。
俺を信じて命を張ってくれた仲間だったから。
背中を押してくれる言葉は全部、本気で温かかった。
そして、初めてのお茶デート。
俺はルクレツィア。
彼女と向かい合って座っている。
……手、震えてる。
いや、さっきからずっと震えてる。
落ち着け俺。
勇者だろ。
魔王倒しただろ。
美女ひとりに心臓バクバク言わせてどうすんだよ。
けど――彼女がスマホを見た瞬間、
世界がほんの少し繋がった。
「……スマホ。それ、本物?」
そう呟いた彼女の声は、驚きと懐かしさと、胸の奥の痛みみたいなものが混ざっていた。
そこから自然と会話が続いて
まさかこの世界で二人目の“日本人”に会うとは思わなかった。
リディアに続いて、今度はルクレツィア。
でも不思議と、リディアのときとは違った。
あの子は……同郷としての安心感。
家族みたいな距離感。
大切だけど、恋じゃない。
だけど――
ルクレツィアは、違った。
声を聞くだけで喉が詰まる。
笑顔をみるだけで胸が跳ねる。
緑の瞳を見るだけで、全身が熱くなる。
これが……恋なんだと思う。
彼女が、打ち明けた。
「……勇者は……いずれ魔王になる、って知ってる?」
あのとき、心臓が止まった。
言おうか迷ったけど――全部話した。
「俺――魔王化する兆候、今はもうありません」
それを聞いた瞬間、
ルクレツィアの肩から力が抜けて、
綺麗な瞳から涙が落ちた。
それがグッと胸にきて…
こんなにも誰かが自分のことを心配してくれるって―
それだけで胸が温かくなった。
数回のデートを重ねた今日。
伯爵邸の応接室で
乙女ゲームについて語るルクレツィアに
「じゃあ、リディアは……サブヒロイン?」
俺の何気ない一言に
「ヒロインじゃなくなった私の存在って…」
彼女はふと目を伏せて震えた。
……なんでそんな切ない顔するんだよ。
俺は笑った。
「俺はルクレツィアさんと結婚するためにいるし!」
正直、心臓が爆発すんじゃないかってくらい跳ねた。
けど、嘘じゃない。
本気だ。
彼女を安心させたかった。
たとえゲームがどうとか、勇者がどうとか、運命がどうとか―
そんなの関係なく。
俺が惚れたのは、
この世界で、
この瞬間の、
ルクレツィアだから。
ほんの少しだけ頬を染めた彼女の横顔を見て、
俺は思った。
――ああ。
この人と一緒に生きていきたい。
応接室の窓から陽の光が差し込む。
外では、伯爵邸の騎士や侍従たちが、
壁に張りつくようにして耳をそばだてている気配がする。
(いや、俺にはわかるからな!?
普通にな!?
散れ!!)
でもまあ――いいか。
これは、俺とルクレツィアの
**“正規ルート”**なんだから。
世界がどう歪んでも、
ゲームと違っても、
俺はこの恋を選ぶ。
だって――
俺は乞い願う。
ルクレツィアに出逢うために呼ばれたんだから。




