昼下がりの陽光に
タロウの瞳が、大きく見開かれる。
「……今、日本語で 話しましたよね?」
――その瞬間、不自然な感覚が走る。
タロウは驚きと共に、確かな“慣れ”を感じていた。
「転生者と日本語で話すの……二度目なんです」
「……二度目? まさか……」
タロウはスマホを胸にしまい、静かに言葉を続けた。
「一人目は――リディア。
あの……公爵令嬢の。
たまたまスマホの曲を聴いて……
口ずさんでくれたんです。日本語で。
そこから“同郷”ってわかって、
日本語会話してました」
リディア――
銀の髪。薄紫の瞳。
祝勝会で人々の中心にいた少女。
あの子が、日本語を?
まさか。
いや――納得する。
あの子は“モブ”なんかじゃない。
どこか核心に触れるような眼をしていた。
だが、タロウの話には続きがあった。
「……もう一人は、魔王アクロンです」
――息が止まった。
「彼は転生じゃなく召喚。俺と同じです。
なにも知らずに魔王を倒して次の魔王と化して―
“帰りたかった”って言ってました。
俺の手で魂を元の世界へ送れた、と……
勝手に願ってますけど」
その言葉を聞き、
ルクレツィアの胸が一気に締め付けられた。
魔王だった男にも――
彼の、愛する人がいたのかもしれない。
元の世界に。
……怖い。
「じゃあ……タロウ。
あなたも魔王になってしまうの……?」
タロウは、静かに笑った。
そして――確信したように、首を横に振る。
「大丈夫です。
――俺、もう“祝福”を受けてますから」
ルクレツィアは一瞬理解できなかった。
「……祝福?」
「はい。公爵邸へ婚約を祝いに訪ねたら
彼女が“祝福実験体になってみる?”とか言いながら
こう、気合いで!!」
「…………え?」
「それ以来、
胸の苦しみも闇の気配も消えたんです。
俺――魔王化する兆候、今はもうありません」
――シーン……
テーブルの上のティーカップから、
白い湯気が立ち上っていた。
ルクレツィアの肩から、力が抜けた。
(……じゃあ……この世界は……
もう崩壊しないの?
ヒロインじゃなくても……
私、救われてる……?)
気づけば――
涙が落ちていた。
タロウは驚いたが、
何も聞かず、そっと立ち上がって
差し出してくれたハンカチは――
胸がじんわりと熱を帯びていく。
タロウは、少しだけ照れくさそうに笑った。
だが――
すぐに真剣な瞳になって言う。
「だから俺……
ルクレツィアさんと、結婚を前提に――!!」
「…………は?」
その一言が放たれた同時刻――
遠く、公爵邸では紅茶を楽しんでいたリディアが
突然“ぴーん!”と反応する。
──タロウが、盛大に何かやらかした。
気がする…
本能的にそう悟ってしまい、思わずティーカップを置いた。
その様子を見たシンと侍女は顔を見合わせた。




