シン視点 僕のリディア様、影の中で嗤う夜
祝勝会の喧噪はまだ続いていた。
けれど、俺の視線は――ただひとりだけを追っていた。
リディア様。
王国が誇る英雄であり、
第二王子妃として婚約が告げられた少女。
……俺の、たったひとりの主。
(あの日――目を覚まされた時のこと。
勇者タロウとの“同郷”という言葉の会話。
あれは……【終わりの合図】だった。)
二人だけが使う「日本語」という言語で会話されていた時。
“同郷”――ただその一言で終わった。
タロウは彼女の恋人ではない。
その会話の様子、仕草、声の温度……
すべて覚えている。
見ていたからだ。
――“影”の俺だけが。
噴水広場でも同じ。
ヒキャルは涙をこぼした。
だがその想いは届かなかった。
兄として――終わった。
あの瞬間、俺の胸の奥の闇は
ざわめきながら、歓喜に震え静かに熱を帯びた。
(そうだ。
リディア様は、“俺”を選んでくれている。
兄で終わらせたのは、
俺だけを――心に置いてくださっているからだ。)
貴公子は……滑稽だった。
命を救われた英雄として、
リディア様に声をかけようとしていたが――
騎士団の酔っぱらいに絡まれ、
そのまま第二王子との婚約発表で
仕組まれたように幕が下りた。
あの瞬間から、彼の役目はもう終わっていた。
影の中に立つ俺には――すべてが見えていた。
リディア様が大勢の人々から想いを受けられている
でも…
誰も届かない。
誰にも届かせない。
(あぁ――
胸の内が……焼け付くようだ。
これが嫉妬というものか。
それでも。
“恋愛に発展しなかったこと”に――
俺は救われた。
リディア様 も 僕を愛している
信頼し、
傍にいてほしいと、
“無意識に選んでくださっている”のだから。)
第二王子が彼女の婚約を告げた瞬間でさえ、
俺の中では希望の灯が消えることはなかった。
リディア様はまだ――俺を捨てていない。
俺を――愛してくださっている。
侍従としてでも構わない。
影であっても、汚れた魂であっても。
彼女の側に立てるなら――それでいい。
……もし、
もしこの先――
リディア様の笑顔が“誰かに”奪われる時が来るのなら。
(その時は――
俺の影、
どこまで染め上げられるだろう。
たとえ、世界ひとつでも……
壊せるのだろうか?)
月明かりが窓を照らす。
俺は静かに膝をつき、頭を垂れた。
主のための侍従として。
影に徹する――俺の誓い。
――どうか、
リディア様の幸せが続きますように。
もしその笑顔に陰りが落ちるのならば……
その陰は、俺が全部飲み込む。
今夜も、影は穏やかに揺れる。
それは――
嫉妬と歓喜が同時に燃える、
闇色の炎のようだった。




