まさかの恋愛フラグと、コケた私
祝勝会はまだ熱気を帯びていた。
人々の歓声と音楽、甘い香り。
その中――侍女たちの会話がふと耳に届いた。
「聞いた!? 勇者タロウ様、
伯爵家のあのボンキュッボン令嬢に――
お茶、誘ったんだって!」
「しかも成功したらしいわよ?」
……私は盛大にコケた。
本当に盛大に。
靴がすっぽ抜けて、
侍従のシンに小さく抱えられたほどに。
「――あっぶないので、歩く際はお気をつけください。
リディア様。」
丁寧な言葉だけれど、
その目は“なんでそんなに驚いたんですか?”と語っていた。
いや理由はあるのよ!!
(あの挙動不審のタロウが!?
てっきり、突撃して爆死したと思ってたのに!!
あの圧倒的な……
素早さゼロ恋愛初心者が!?
まさか……お茶に誘うことに成功した!?
しかも美女!?
えっ、成功……??
まさか……釣れたの!?)
じわじわと現実を理解するにつれ――
胸の奥が、なぜかぐつぐつしてきた。
(タロウ騙されてるんじゃない?
いやいや、私が何か言う立場じゃないよね!?
私は魔王討伐に同行してただけの“同郷仲間”だし!!
むしろ、幸せになってくれ!!
でも……何この胸のざわざわ……
ロマンス詐欺みたいにやっぱり騙されてない?
……胃に悪い……)
「……本当に、成功したのかしら?」
隣を歩くシンに、
つい呟いてしまった。
シンは静かに瞬きをしたあと――
とても穏やかな声で答えた。
「……事実かどうかは、
今夜の動きを見ればすぐに判明するでしょう。」
いつもの柔らかな声。
けれど、その瞳の奥……
なぜか小さく闇が揺れているように見えた。
私は慌てて視線をそらす。
(あ、あれ?
何か……シン、怒ってる?
いや気のせい……よね?
ただの“忠実な侍従”だもの。
うん。忠実。とても忠実。メチャクチャ忠実。)
遠くでタロウの笑い声が聞こえた。
……楽しそうだ。
シンがそっと問いかけた。
「……リディア様、
胸が痛みますか?
顔色が……少し悪い。」
「だ、大丈夫よ。
ただ――
心に突然、バッドエンドの演出がよぎっただけ。」
「……バッド……?」
「あ、忘れてちょうだい。
ただの心の声だから!!」
私は何度も深呼吸して、
胸に手を当てた。
――こんな祝勝会でまさか恋愛の噂に翻弄されるなんて。
でも――
何かが少しずつ変わっていく予感がした。




