記憶ロード中:乙女ゲームはもう終章ですか?
祝勝会のざわめきの中、
眩しすぎる少女が視界に入った。
――リディア公爵令嬢。
今しがた、第二王子との結婚が告げられ
銀の髪に薄紫の瞳。
優雅な所作で人々の祝福を受けている彼女は、
明らかに“プレイヤーキャラ”の存在感だった。
けれど――
この少女、ゲームに出てきた記憶がない。
(え……待って?
あの乙女ゲーム《乞い願う恋》に
そんな子いた?
いや……
ヒロインは私のはずだし、
攻略対象は5人しか――
第二王子、騎士団長の息子、侍従、貴公子、そして勇者タロウ。
なのに……
聖魔法と精霊魔法の適性?
そんなチートキャラ、いたっけ?)
タロウの姿を探すと――
いた。
こちらへ猛ダッシュで来ていた。
すでに目がハートだった。
「俺、恋愛初心者なんだよね!
でも今なら……もしかしたら、
いけるかもしれないって思って……
あの……お話、してもらえたり……
紅茶とか……つきあって……いただけたり?」
――挙動不審。
けれど、目は真っ直ぐだった。
なぜか、
その瞬間に脳の奥で
“何百時間分のゲーム記憶”が爆走し始めた。
(山田太郎――
そう。確かに勇者タロウは攻略対象のひとり。
ヒロイン(私)は魔王討伐に同行し、
その後“神と精霊に祝福されるイベント”が絶対に起こる。
それをクリアしなければ――
勇者は次の魔王になる
バッドエンド確定ルート……)
そこまで思い出して。
息が止まりかけた。
(……ちょっと待って。
魔王、もう討伐してるじゃん。
でも祝福イベント始まってない。
つまり……
ゲームシナリオ、破綻してない?
じゃあ勇者タロウ――
もう魔王化ルート突っ込んでるじゃん!?
世界崩壊じゃん!!
なんで誰も気づいてないの!?)
視界の端――
リディアが人々に敬愛の眼差しで迎えられていた。
……聖魔法だけじゃない。
精霊魔法も使っていた。
その噂は聞こえてきた。
(精霊魔法……?
そんな設定、ゲームには存在してない。
じゃああの子は何者?
ヒロインじゃない。
私と無関係。
むしろ――異物だ。)
背筋が冷える。
そして――悟った。
(私の役割はもう終わったんだ。
私はルートから外れた……
モブ以下の“傍観者”。
だけど――
まだ勇者は笑ってる。
何も知らずに、堂々と。
魔王になる運命を知らずに。)
タロウがまだ必死に会話をつなげようとしていた。
「えっと……好きな食べ物とか、ありますか!?
あ、でもまだ人間なので……
ピクルスとかワサビとかはちょっと……!!
でも挑戦はします!!
努力する男です!!!」
……馬鹿だ。
何も知らない。
まるで、けがれのない少年。
(……世界が崩壊する前に、
お茶くらいつきあってあげてもいいか。
魔王になる前の情けとして。)
はじめて、タロウに笑いかけた。
「紅茶。――好きよ。
付き合ってあげる。」
タロウの顔は――
世界が救われたみたいに明るくなった。
――その瞬間、私は知る。
この世界の誰より、
この少年は“真実”に近づいていない。
けれど……
なぜだろう。
その笑顔に、
ほんの少しだけ――
救いを感じてしまった。




