祝福の舞台、王族の手の中で
会場へ戻ると、
先ほどより明らかに視線が増えていた。
騎士たちの賛辞も、貴族たちの羨望も――
祝福に変わってゆく空気。
私は深呼吸をひとつして、
王族の待つ壇上へと歩いた。
王妃と国王。
その隣には、第一王子カイロスと王妃キャサリン。
そして――
少しだけ距離を空けて、
第二王子アイキムが立っていた。
私のドレスの色と――
彼の礼服の色が、ほぼ同じであることに気づいた瞬間、
胸の奥がにわかに冷たくなった。
――蒼。
王宮の中でも、“アイキムの瞳” として知られる色。
(ああ……やっぱり、
これはもう――)
壇上へ膝をつく。
正式な儀礼の言葉を述べると、
王は穏やかに頷いてみせた。
「リディア公爵令嬢。
王国を救った功績、確かに見届けた。
――そなたの勇気と魔法は、
この国の象徴となるだろう。」
周囲から拍手が起こり、
私は顔をあげる。
父と母の笑顔が見えた。
それは本当に――誇らしげだった。
しかし、その直後に告げられた言葉で、
会場の空気は大きく色を変える。
「褒賞に関しては、
王族会議で審議の上――
近日中に正式報告を行う。」
その言葉と同時に、
隣に立つアイキムが前に出た。
「王国は、聖と精霊を併せ持つ少女を
英雄として称える。
これは――ただの褒章ではありません。」
蒼の瞳がこちらへ向けられる。
人前で向かい合うだけなのに、
背筋がぞくりと震えた。
「この国に必要なのは、
勇者と並び立つ“象徴”だ。
――つまり、“王妃たり得る存在”。」
ざわめきが会場を走った。
貴族たちの目が一斉にこちらを向き、
言葉には出さずとも、
すでに理解している空気。
聖女と王子の結婚。
ベタな展開。
だけど、それが――公式の布石。
(……ここで笑えば、“了承”だろうか。)
(拒めば――“政治的問題”になる?)
喉が乾いた瞬間、
リディアは小さく気づく。
――蒼のドレスだった。
ヒキャルやタロウ、そしてシンは褒めてくれた。
あの色を素直に受け入れ、
何も疑わずに纏った自分。
(……逃げられない。
アイキムの色を、私はすでに纏っている。)
心だけが、静かに抗った。
(だけど。
……私は……)
その時。
アイキムがほんの一歩だけ近づいた。
視線だけで、言葉を紡ぐように――
(――逃がさないよ)
その無言の圧は、
誰にも悟られず、
私の胸だけを締めつけた。
そして、王妃の声が響いた。
「聖女と王子――
これほど似合う組み合わせがあるでしょうか?」
会場が一斉に湧き上がる。
拍手。
歓声。
祝福の渦。
もう、流れは止まらなかった。
私は深呼吸をひとつ。
その場に立つしかなかった。




