噴水広場、銀髪の乙女と忠誠の騎士
扉が開いた瞬間――
世界が光にあふれた。
天井高く吊られたシャンデリアには
無数の魔石が埋め込まれており、
揺れる光はきらめく星の群れのようだった。
奏でられる弦の音。
人々のざわめき。
香る果実酒と花の香り。
――祝勝会。
その名に恥じぬほど、
王都は歓喜に染まっていた。
歩みを進める私へ、
周囲から視線が集中する。
「あれが……」
「魔王討伐の中心人物……」
「公爵令嬢、リディア様……!」
兵士も、騎士も、貴族も、
一斉に私を見つめた。
足が強張った。
だが――その時。
「リディア様だ!!
お帰りなさいませ!」
「あなたの魔法がなければ俺たちは生きてない……!」
「ありがとう!!」
――騎士団の声だった。
前線で共に戦った彼らが、
グラスを掲げて笑っていた。
涙ぐむ者もいた。
拍手を鳴らす者もいた。
こみ上げるものを誤魔化すように、
私は小さく手を振った。
――胸が温かかった。
そして――怖くもあった。
目立てば目立つほど、
逃げられなくなる未来が待っている気がしたから。
(……噴水前。
ヒキャルとの約束がある)
私は会場を抜け、
人混みを避けるように歩き出した。
⸻
夜風が吹いた。
人々の歓声から離れるほど、
静けさが戻ってくる。
庭園の真ん中――
水音だけが響く噴水広場。
そこに、
ヒキャルが立っていた。
「……リディア様。
来てくれたんだな。」
彼は騎士服の襟を正し、
私の前で片膝をついた。
真剣な眼差し。
そして――微かな震え。
「ずっと……想っていました。
初めて会った日から。
俺の……初恋は、リディア様です。」
空気が揺れた。
言葉が出てこなかった。
「でも……それは今日で終わりです。」
彼はまっすぐ私を見つめた。
「俺は……
騎士としてあなた様を護りたい。
1番近くで、誇りとして在りたい。
――だから、今日で想いを封じます。」
そう言ったヒキャルの目から、
静かな涙がこぼれた。
「ずっと……ずっと好きでした。
でも……これからは――
“幼馴染のお兄ちゃん”として……
公爵家の騎士として
そばにいても、いいですか?」
私の胸が、強く痛んだ。
けれど、笑わなければならない気がした。
「うん。
これからも、ずっと
……頼りにするよ。」
ヒキャルの瞳に光が戻る。
それでも、涙は止まらなかった。
「ありがとうございます……
リディア様……
大好きでした……!」
最後まで美しい礼をして、
ヒキャルは背を向けた。
涙を拭うことなく――
ただ、騎士としての歩幅で去っていった。
⸻
その姿が消えたあと。
声にならない声が漏れそうになった。
だが――
黒い気配が、
ほんの少しだけ揺れていた。
影の中。
シンがじっとこちらを見据えていた。
銀髪を揺らす私と、
涙を零すヒキャル。
それを何も言わず――
“瞳の奥の何か”だけが燃えていた。
(……見られてた)
唇が震えた。
鼓動が跳ねた。
祝勝会の夜はまだ続く。
けれど――
影の熱は、もう動き始めていた。




