眠れる姫をみつめた夜
王城――その白き寝室の前には、
常に護衛と侍女が控えていた。
扉の外に立つ騎士たちは、
なぜ第二王子が夜ごとここに足を運ぶのか、
言葉には出さないまでも、
すでに察していた。
――魔王討伐隊の報告書。
戦場に同行できなかったアイキムは、
その一枚一枚を食い入るように読み込んだ。
敵の侵攻。
異常な魔力反応。
一点突破作戦。
勇者タロウの戦闘記録。
魔術師団長セバスチャンの魔力解析。
――そして、何度も目にした名前。
“リディア”
彼らが凱旋したと聞いたその日、
アイキムは即座に戦場報告書を求めた。
読み終えた後――
言葉にならない感情が、王子を立たせた。
(会わなければ、眠れない。)
そうして乙女の眠る寝室に、
何度も足を運んだ。
眠るリディアの頬にはまだ、
ほんのりと熱が残っていた。
長いまつげがかすかに揺れ、
呼吸だけが静かに命を刻む。
月光のような淡い銀の髪。
光に触れた瞬間だけ、淡く金色に揺れる。
その神秘的な髪――
言葉では語り尽くせぬ“特別”がそこにあった。
(……こんな少女が。
魔王討伐の英雄になったのか。)
手を伸ばす。
触れたら、二度と離せなくなると知りながら。
けれど――止められなかった。
指先にすくい上げた銀髪は、
絹より柔らかく、
月光より淡かった。
(……逃げられると思ったら、大間違いだ。)
この俺こそが、
彼女の居場所であるべきだ。
そう思った瞬間――
胸の奥が灼けるほど熱くなった。
唇が、迷いなくその髪へ触れた。
「リディア…俺の愛しい人
君に相応しい形で
この腕の中に……。」
声は低く、静か。
けれど、それは誓いだった。
蒼い瞳には、淡い銀を映す鏡が揺れていた。




