勇者の真実と、終わりを願う魔王
魔王城最深部。
黒く染まった大広間は、まるで空気さえ死んでいるようだった。
玉座には――目を閉じた魔王アクロンが、静かに座していた。
剣を構えたタロウに視線を向けることもなく。
「……待っていたぞ、今代の勇者よ。」
低く、やわらかな声だった。
敵とは思えぬほど、穏やかな声。
「俺はお前を知らないぞ?」
タロウは剣を握りしめながら問い返す。
「だが、勇者のことは知っている。」
アクロンはゆっくり目を開いた。
その瞳には――深い悲しみが宿っていた。
玉座の前。
アクロンは立ち上がり、
重い口を開く。
「勇者は……討伐を果たしたあと、
元の世界へは帰れぬ。
この世界にただ一つ残された“席”に――
就くことになる。」
「席……?」
タロウの胸がざわつく。
静かな声が、真実を告げる。
「――魔王の席だ。
次の魔王となるのは、
お前だ。」
その言葉は、剣より鋭くタロウの胸に刺さった。
「そんなの……聞いてない!!」
「誰も教えぬ。
教えてしまえば、
勇者は誰も来なくなるからな。」
アクロンの足元から黒い魔力が揺れた。
それは感情ではなく、宿命の呪いだった。
「戦の果てに……
俺は“死”によって解放される。
だが――
魔王そのものの意思が、
次の器を探し始めるのだ。」
黒い魔力の手がタロウへ伸びる。
威圧ではない。
感情でもない。
“流れ”だった。
どんな強者でも抗えない――世界の仕組み。
アクロンは剣さえ握らず、
静かにタロウを見つめた。
タロウは震える息を吸い込み、
日本の空や友の声を――
心の奥で思い出した。
そして、言った。
「俺は……帰りたい。
帰りたかった。
だけど……
帰れないからって戦わない訳にはいかない。
この世界で出会った人たちを
“犠牲”にはしたくない。」
アクロンの瞳が、ほんの一瞬揺れた。
まるで――
その言葉を、
待っていたかのように。
「……ならば、抗え。
この運命に、抗ってみせろ……勇者よ。」
黒い魔力が渦巻く。
タロウの魔法とぶつかり――
火花が散った。
「全部……
守れる方法を、俺が見つけてやるよ!!」
剣を振るうタロウ。
黒い魔力で応じるアクロン。
玉座の前で、
互いの意志だけが交差した。




