それぞれの覚悟と、焚き火の音
夜。
出発を控えた前線基地は、静かな焚き火の灯だけが揺れていた。
明日は魔王アクロンへの“一点突破”作戦が始まる。
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ヒキャル
ヒキャルは少し離れた場所で、
磨き上げた剣の刃を光に透かしていた。
ひとつひとつ丁寧に手入れしながら、
ひとつだけ確かな思いを胸に刻む。
(リディア様を護る。
それさえ果たせるなら――
俺は何度でも剣を振るえる。)
騎士としての決意。
幼馴染としての想い。
その二つが、無言のまま重なっていた。
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シン
シンはいつものように、
リディアの後ろに静かに控えていた。
しかし、その表情は穏やかでありながら、
どこか張り詰めた気配も宿していた。
(戦場では感情は不要。
ただ……
“リディア様の隣”だけは、誰にも渡さない。)
冷静に鼓動を抑えつつも、
影は静かに揺らめいていた。
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タロウ
タロウは少し離れた焚き火の前で、
スマホを強く握りしめていた。
「……帰れるって、信じたい。
信じなきゃ、戦う理由がなくなるから。」
スマホのアルバムを開く。
日本の青空。友人の笑顔。
母と妹、そして父が並ぶ――日常の光景。
「でも……今はこっちの世界にも
守りたい人ができたんだよな……
……フラグじゃないぞ。」
ぽつりと呟き、
自らフラグに気づいて頭を抱えた。
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クライド(貴公子)
回復したクライドは、身体の動きを確かめるように立ち上がり、戦いの前にリディア嬢へ言葉をかけにいった。
「この戦いが終わったら……
リディア嬢と、改めて……
感謝と――」
「えっ?」
(また、フラグたてちゃダメでしょ!!)
リディアは焚き火の前で
ぽかーんと口を開け、
頭を抱えた。
焚き火が“パチッ”と音を立てた。
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夜は深く静かに、更けてゆく。
それぞれの胸に宿る想いは異なるが――
ただひとつ、同じ願いがあった。
“生きて帰ること”




