裂け目の先で、嗤うもの
「……来ます!」
リディアの声と同時、森の奥から魔力の裂け目が開いた。
空気がゆがみ、黒い影がにじみ出る。
魔物――しかし、形が不安定だ。
牙も爪も、何かに“喰われたように”欠けている。
(……これが、喰われた痕――?)
突撃してきた魔物は、
ただ暴れるのではない。
“私たちの命を狙う”ことだけを目的としていた。
ヒキャルが前へ出る。
タロウが詠唱を開始する。
「タロウ! 左へ回れ!」
「了解!! 身体強化――!」
タロウの動きは速かった。
何度も訓練を重ねた連携が、
ここではじめて実戦で形となる。
魔物が飛びかかる。
ヒキャルの剣が軌道を逸らす。
その一瞬――
タロウの剣撃が魔物の側面を貫いた。
さらに三体――
異形の影が跳ねた瞬間。
背後で、空気が凍りついた。
「……影を縫いとどめろ」
低い声。
シンだった。
次の瞬間、
影が地面から“縫うように”伸び,
魔物の四肢を絡め取る。
闇魔法――影縫。
抑制ではなく、“無力化”としての術式。
(――覚醒……)
リディアですら、息を呑んだ。
シンの魔力は冷たく静かに広がり、
魔物を動けなくしていった。
戦闘が終わり、森の奥を探索すると――
先発隊の姿が見つかった。
全員ではない。
しかし、何人かは息があった。
その中のひとり――
深手を負った青年がいた。
貴族の紋章のついた上等な服。
血で染まってはいたが、
その顔には見覚えがある。
リディアが治癒魔法を施すと、
彼はかすれた声で名を告げた。
「……僕は……伯爵家の、
クライド……です。
助かったのか……?」
クライド貴公子――
たしかに記録にあった名。
砦で戦線に立った先発隊のひとり。
リディアが息を整え、
驚きに微笑みを浮かべた。
「クライド様。
よく、生きていてくれました。」
その瞬間、
彼の目に涙がにじんだ。




