魔力の流れが、歪んでいる
先発隊の痕跡が見つかった場所。
森は静かで、風さえも動かない。
けれど、その静寂は――
“安らぎ”ではなく“緊張”だった。
私は胸に手を当て、目を閉じた。
精霊魔法と聖魔法。
二つの魔力を重ねることで、
“魔力の流れ”をより強く感じ取れる。
……おかしい。
人の声が、消えている。
魔物の気配はあるのに、命の音が決定的に欠けている。
「ここは……まるで、
生と死の境目だけが削られた場所のようです。」
ヒキャルが警戒の構えを取り、
セバスチャン師匠も杖を構えた。
「魔王軍の魔物が残した痕跡、
というだけでは説明できんな。
魔力そのものが“連続”していない。
特異な現象……」
私は足元の土に触れ、
精霊に声を掛ける。
(……この森で、何が起きたの?
教えてくれませんか。)
目を閉じると、
精霊の声が、かすかに耳に触れた。
――“裂け目”
――“喰われた”
――“触れてはいけない”
意識が一瞬、深い場所へ沈みこむ。
そのとき、私の胸を突いたのは
“恐怖”ではなく――
明確な嫌悪感だった。
「……これは、悪意です。
争いでもなく、怒りでもなく……
ただ、無差別に“奪う”だけの――」
言葉の続きを、声にはできなかった。
私の脳裏に、父と母の顔、アイキム
そしてシン、ヒキャル、タロウ、様々な人々の姿がよぎる。
(もし彼らの命まで、
“奪われてしまったら”――?)
胸が締めつけられた。
けれど、目を背けることはできない。
主の娘として、生きる者として、
感じ取った異常を伝えることは義務だった。
「この森には……
感情も理性もない“飲み込む力”が潜んでいます。
この状態が広がれば――
王都にまで届くかもしれません。」
タロウが険しい表情で、
そっと拳を握りしめた。
シンとヒキャルは、
その横で剣と杖に手を触れた。
――“何かが近づいている”
言葉にしなくても、
全員が同じ感覚を共有していた。
森の暗がりが揺れる。
影が形を持つ。
そして――
“気配”が動いた。




