シン視点 前線に漂う異質な気配
前線基地での治癒が終わった翌日。
捜索部隊が編成され、僕もリディア様の護衛として参加することになった。
ここからさらに北――
“先発討伐隊が消息を絶った地点”へ向かう。
森に入った瞬間、空気が変わった。
風の匂いが重く、土の湿りが深い。
蝉の声のような音が、一定ではなく不規則に鳴っている。
何かが、この森で“息づいて”いる。
ヒキャルは剣を抜き、タロウは詠唱の準備を整えて歩く。
僕は気配を探りながら、周囲に目を配った。
どれほど訓練を積んでも――
この森には、言葉にできない“違和感”がある。
(魔物の声が、近すぎる。)
そう感じはじめた時、
先頭の斥候が叫んだ。
「痕跡を発見!! 遺留品があります!」
急ぎ足で駆け寄ると、
折れた槍、焦げた布、そして血痕。
それらは《先発隊のもの》だと確認された。
だが――奇妙だった。
血痕の量に対して、遺体がない。
争った跡が激しいのに、
魔物の死骸すら残っていなかった。
(……まるで、跡形もなく“消えた”ような……)
その瞬間。
リディア様が立ち止まった。
薄紫の瞳が、夜明け前のような沈みを帯びる。
「……シン。
人の声が……消えてしまった場所。
ここ、魔力の流れが……おかしいです。」
セバスチャン師匠も杖を構えた。
「魔物の“死”が感じられない。
通常の屍すら残していない――
これは……魔王の“核”に近い現象だ。」
風が止まり、森全体が静かになった。
やがて――不自然なざわめきが立つ。
それは魔物達の声ではなかった。
まるで、何かに操られた“影”が囁いているような音。
僕は目を凝らし、全神経を集中させた。
そこには、形のない“うごめき”があった。
(……影が、こちらを見ている。)
(この森には――何かが潜む。)
その時。
一歩前へ出た僕に、リディア様が小さく声を掛けた。
「シン。
……何かが、来ます。」
僕はリディア様を背にかばい、
そっと手を伸ばした。
影が――応じた。
まるで、ずっと待っていたかのように。




