思いが届く範囲まで
夜明け前。前線基地へ到着した。
砦は疲労と緊張の色に覆われていた。
荷車には治療を待つ兵士たち。
壁際には息の荒い騎士たち。
誰もが“戦いの真実”を伝えていた。
「魔王軍の勢いが急激に増した」
「魔物の数が多すぎる」
「援軍を待つ時間がなかった」
基地を支える神官と司祭たちは
すでに治療の限界に達しているらしく、
魔力の使いすぎで倒れる者もいた。
その時――
魔術師団長セバスチャンが、静かに杖を掲げた。
「ここからは我々が引き継ぐ。
魔術師団、並べ。」
リディアも前へ進む。
師匠の横に立ち、当たり前のように詠唱の構えを取った。
その姿を見た全員が息を呑む。
(……リディア様――)
ヒキャルは騎士団の隊列を整えながら、
幼い頃から見てきた背中の“強さ”を確信する。
そしてセバスチャンが命じた。
「広域展開――聖域治癒の陣。
リディア、合わせなさい。」
「はい、師匠。」
杖が地面に触れた瞬間――
地面を伝って光の環が広がり、
砦全体をやさしい輝きが包み込んだ。
騎士も、司祭も、倒れていた魔術師も――
その光に触れた者たちは静かに呼吸を整えていく。
声にはならない感謝、
目を閉じて祈る者、
胸を押さえて空を仰ぐ者。
「……あたたかい…本当にありがとうございます……」
その一言に、リディアは微笑んで答えた。
治療が一段落すると、
砦全体に少しだけ会話が戻った。
しかし“前線の現状”は、まだ闇の中だ。
「魔王軍の本隊は、さらに北だと聞きました。」
「選抜討伐隊の消息は――?」
アルケイド騎士団長と魔術師団長セバスチャンたちは淡々と報告を受け、地図を睨んだまま答える。
「ここからが本当の戦場だ。
この治癒で生き延びた者たち――
その願いを背負って進むだけだ。」
リディアはそっと目を閉じ、祈るように両手を組んだ。




