シン視点 胸の奥に落ちた影
夜。
ブランケットを抱え、リディア様の様子を見に行こうとした時だった。
焚き火のそばに、彼女と勇者タロウが並んで座っていた。
言語が違う。
聞き取れない異質な響き。
けれど――楽しそうに笑うリディア様の表情だけは、はっきり分かった。
その微笑みは、侍従として日々そばにいても、
たまにしか見られない“特別な笑顔”だった。
理解できない言葉。
馴染みのない声音。
勇者タロウはその“鍵”を持っているらしい。
胸の奥がざわついた。
これは警戒心なのか――それとも。
(……あの人は、いつからリディア様に笑みを向けられる立場になった?)
リディア様の横顔は、柔らかかった。
その優しさの一部に、
自分の知らない“過ごしてきた時間”があると気づいてしまう。
(僕に向けられるはずのリディア様の特別な笑顔が…)
手の中のブランケットが強く握られていく。
夜空の下、
いつもは眠りにつく時間。
けれど――
この夜ばかりは、目を閉じることができなかった。
リディア様の笑い声が頭から離れず、
勇者タロウの顔が脳裏から消えなかった。
それでも、静かに息を整える。
侍従として、明日も隣に仕えるために。
(……リディア様。どうか、その笑顔の隣は――僕であってほしい)
誰にも聞かれないように、
心の奥でそっと呟いた。




