日本語という秘密
懐かしいアニメソングが夜風に溶ける。
耳に触れた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
気づけば私は――
無意識に、その続きを口ずさんでいた。
「…… 恐れないで みんなのために――♪ ♪」
歌い終えて我に返った時
「なんで――その歌、知ってるの?」
少し低く、驚きの滲む声。
思わず肩がびくりと震える。
言葉を探すうち、
口からこぼれたのは――
日本語だった。
「……わたし……日本にいたんです。
えと……そこで暮らしていて……
気づいたら、この世界の赤ちゃんに……」
タロウはしばらく黙っていたが、
ゆっくりと表情がほどけた。
「……転生ってやつか?
俺は……マンホールに落ちたら召喚されました。」
思わず笑いそうになる。
タロウが語るくだらない日本での日常の話が妙に愛しくて、
会話は拙いながらも自然に続いた。
日本語だけで、世界が繋がっていく感覚。
それは何年ぶりだろう――?
タロウが夜空を仰いだあと
スマホの画面にそっと触れみせてくれた
そこには日本の景色、家族、友人――
想い出がそのまま閉じ込められていた。
しばらく黙ったあと、彼は言った。
「……このクエストをクリアできたら、
俺、きっと日本に帰れると思ってます。
だから……それまでは、
この世界でもちゃんと、生きてみようかなって。」
その言葉には、
現実を見たくない気持ちと
帰れると信じたい希望が混じっていた。
きっと本人も、分かっているのだろう。
不安を覆うための言葉だということを。
私は静かに頷いた。
久しぶりの日本語。
懐かしさと切なさが重なり、
夜風がやさしく吹き抜けた。
――その少し離れた場所で、
ブランケットを抱えたシンが、
何も言わずリディアとタロウを見つめていた。
彼の胸に揺れていた感情だけは、
誰にも聞こえていなかった。




