14年ぶりの日本人
異世界の勇者召喚が成功した――
その知らせを聞いたのは、魔王討伐の準備に追われていた頃だった。
魔力の査定、治癒魔法の調整、魔術師兵への支援計画。
出立が迫るたびに予定は積み重なり、
母には泣かれ、父には“無事に帰ること”を何度も約束させられた。
侍従のシンは当たり前のように同行準備を整え、
幼馴染のヒキャルは正式に騎士となり、
私の護衛騎士に任命された。
(異世界の勇者とは、どんな人なのだろう?)
気にならないと言えば嘘になる。
けれど、会う機会はなかった。
ただ、名前が――“ヤマダ タロウ”という話だけは聞いていた。
そして、討伐隊の出立の日。
王城前の広場には騎士も魔術師も神官も集まり、
王国の人々が道の両側から声援を送っていた。
そこに立っていた、異世界の勇者――山田太郎。
第一印象は――爽やか、という言葉が似合う青年だった。
瞳は深い焦げ茶色。落ち着いているようで、
時々慣れない環境に戸惑っているのが分かる。
……名前からして日本人かもしれない、とは思っていたけれど。
約14年ぶりに見た“日本人の顔”だった。
しかし、話しかける機会は訪れない。
隊の規模も大きく、役割も複雑だ。
魔の森に入り野営する頃には夜も更け、
私は眠れずに静かな道を散歩していた。




