その歌、なぜ知ってるんだ?
魔王討伐隊の出立の日。
王都の街道には人々が集まり、歓声と祈りの声が響いていた。
タロウは騎士や魔術師、神官たちに囲まれ、馬上から街を見渡す。
……その時、視界の端に映る少女に気づいた。
淡いドレス、薄紫の瞳。
堂々と歩く姿が、大人びてさえ見える。
(……え、マジで?
こんな美少女も同行するの?
え、極上ファンタジーかここは?)
彼女の名はリディア。
国中でその魔法適性を注目されている聖魔法の使い手――そう聞かされた。
だがタロウには、まだその意味がよく分からない。
そして、なぜか視線が合うたび彼女は人懐っこい笑みを浮かべて微笑んでくる。
……少し、心臓に悪い。
やがて隊は王都を離れ、魔の森へ向けて進軍を開始した。
自然は濃く、夜は深く、電波はまったく入らない。
(Wi-Fiどこ?)
(ていうかスマホにもチートを付与してくれれば良かったのに……)
なんとなくスマホに魔力を込めてみたところ、
充電だけは出来ることが判明した。
アルバムには父、母、口煩い妹、
そして馬鹿やってる友人たちの写真――
現実とのギャップに胸が痛くなる。
その夜、眠れそうになかったタロウは、
夜空を見ながらスマホの音楽アプリを開き、
保存されていた一曲を流した。
某有名なアニメソングである
現実との境が一瞬だけ滲む。
その時――
近くを歩いていたリディアが、ふと立ち止まった。
夜風に髪を揺らしながら、
その歌を――小さく口ずさんだ。
タロウは思わず振り向く。
「……え」
「なんで――その歌、知ってるの?」
リディアは薄紫の瞳でこちらを見つめ、
ほんの少しだけ驚いた顔をした。
「……わたし…」
異世界で初めて交わされた――
日本語による会話だった。




