アイキム視点 報告書の文字が、胸を締めつけた
第二王子宮の執務室に一通の報告書が届けられた。
公爵家の者が城下町で暴漢に遭遇――
そして、公爵令嬢リディアが負傷した、と。
読み進めるほど、呼吸が浅くなる。
彼女が侍従の少年シンと城下町を訪れ、
護衛をつけず祭りを歩いたこと。
その帰路で賊に遭遇し――
身を挺してシンを庇ったという事実。
報告書に“軽傷”と記されていることは救いだった。
しかし、問題はそこではない。
(なぜ、護衛を付けなかった。
なぜ、僕に知らせてくれなかった――)
胸の奥が焦げるように熱くなる。
リディアが無事だと分かっても、その想いは抑えられなかった。
救援に駆けつけたのは公爵家騎士団長と、その息子ヒキャル。
報告には、もう一つ驚くべき内容があった。
賊たちを制圧していたのは、侍従のシンだったということ。
(……やはり、あの少年は只者ではない。)
影が絡むような魔力痕。
闇魔法の発現。
その強さは、敵意ではなく“護る意志”として発動していたという。
アイキムは席を立ち、窓辺へ歩いた。
夜空を見上げると、星々が遠くで瞬いている。
穏やかな景色なのに、心は落ち着かなかった。
「……もし僕がいたら、
彼女は危険な目に遭わずに済んだのか?」
言葉には出さないが――
リディアへの感情は、強く澱のように沈んでいく。
婚約者候補として名が挙がった彼女が、
王宮ではなく戦場へ向かう覚悟を固めているという話も耳に入った。
(逃げたい――そう思ったのかもしれない。)
(だが、僕はもう“待つだけの王子”ではいられない。)
王宮の静寂のなか、
アイキムは執務机に視線を戻し、
報告書に追記の指示を書き入れた。
「公爵家令嬢リディアの安全確保について、
今後、王宮も警戒体制を強化する。」
それは“政治的判断”でありながら――
同時に、彼女を守りたいという強い願いでもあった。
—
この夜、
第二王子の胸に芽生えた想いは
傷を癒してくれた少女へのただの感謝でも、興味でもない――
それは、形のない強い執着の始まりだった。




