ヒキャル視点 あの日、見た光と影の距離
祭りで賑わう城下町に騒ぎが起こった――との連絡が入ったのは陽が傾いた夕刻前だった。
騎士団長である父の表情は硬く、公爵家の者が巻き込まれた可能性があると聞かされた時、血の気が引いた。
「リディア様……!」
誰より早く馬を走らせ、現場へ駆けつけた。
路地の奥には数人の賊。そして――
その中心には、リディア様とシンの姿があった。
リディア様の肩に少量の赤い色が見えた瞬間、頭が真っ白になった。
危険な状況にあったはずなのに、
彼女は少し困ったような、けれど落ち着いた声で言った。
「ヒキャル、来てくれたのね。大丈夫、もう終わったから」
終わった?
そう言われて初めて、周囲の状況に気づいた。
賊たちは身動きを取れず、影のようなものに足を縫われたように固まっている。
目線を追えば――その影の中心にはシンがいた。
彼の目は、どこか冷静で、そして――
何かを覚悟した瞳を宿していた。
胸にざわめきが走る。
自分は騎士として訓練を続けてきたはず。
リディア様を守りたいと誰よりも望んできたはず。
それなのに、先に“危機に立つ”のは、いつもシンだった。
(影みたいに静かで、でも確かに強い。
……あれがシンの、戦い方なのか。)
彼を責める気持ちはなかった。
ただ――
自分の立つ場所が、少しだけ遠く感じた。
だからこそ、声を絞り出す。
「リディア様、護衛を撒かれては困ります。
ご無事で良かったです。
……俺にも、護る役目があります。」
そう告げた時、リディア様はしゅんとしつつも
あたたかな笑顔を向けてくれた。
その笑顔で胸のざわめきは少し収まり、
代わりに強い炎のような感情が生まれる。
(誰より早く傍に立てるように。
自分も、もっと強くならなきゃいけない。)
救出の夜――
ヒキャルの胸に芽生えた感情は、
嫉妬と悔しさ――そして誓いだった。




