シン視点 影が動いた日、心も動いた
侍従としてのスキルはもちろん。暗殺術、諜報活動、護衛術の訓練を受けた僕の役目は、公爵令嬢リディア様の身支度や予定管理、そして日々の身の回り(裏表も)を整えること。
最近のリディア様は、第二王子からの茶会招待が続いてぐったりしていた。
ある日、侍女たちから耳にした城下町の祭りに興味を示される。
「シン、たまには息抜きしてみたいよね?
……護衛を撒く方法、考えてくれる?」
正直、頭を抱えた。
だがその時のリディア様は、久しぶりに心から楽しそうな表情をしていた。
迷った末、侍従として最も安全な経路を選び、城下町へ向かうことにした。
……僕にとっては、これが立派な“デート”であることは、誰にも言ってはいけない秘密だ。
祭りは人々で賑わい。
屋台の香りは誘うように漂い、リディア様の瞳は薄紫色に輝いた。
子どもたちの笑い声に目を細め、屋台を覗き込んでは素直な感想をもらす。
「シン! あの綿あめ……虹色になってる! すごくない?」
その声を聞くたびに、胸がふわりと浮いた。
リディア様の笑顔――あの表情を見るためなら、どんな労力でもかけてしまうと思った。
しかし帰路につこうとした時、数人の影が行く手を塞いだ。
侍従として対応を試みるが、多勢に無勢。
退路も塞がれ、僕の背後に影が迫った。
その瞬間――
リディア様が僕を庇うように前に出た。
「シン、危ない!」
振り上げられた腕。
それを見た瞬間、思考が途切れた。
僕は護衛騎士ではない。が、日々の訓練で鍛えた技で制圧できる
それなのに――主であるリディア様が身を挺して僕を守るために飛び込んできた。
胸の奥がきしむほど鳴り、視界が暗く染まった。
次の瞬間、闇魔法があふれ出す。
――影縫。
黒い影の筋が路地を走り、男たちの足元に絡みつき、動きを封じた。
静寂が辺りを覆ったその時――
公爵家騎士団が駆けつけた。
先頭を走る騎士団長、そして剣を構えるヒキャル。
その姿を見て、僕はようやく呼吸を取り戻した。
保護される中、リディア様は振り返り、静かに言った。
「シン……無事でよかった」
その柔らかい声と微笑みが――
僕の生きる道を確かなものにしてくれた。
(僕のために命を掛けてくれたリディア様…
ああ…間違いない。
リディア様 も 僕を愛してくださっている…)
この日の夜、騎士団の牢に捕らえられた暴漢達は
得体のしれぬ影に息を止められ翌朝発見された。




