↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ召喚士、最強竜を召喚してしまう  作者: サモト
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/43

13話 普通の幻獣と、そうでない幻獣

 結局、山の見回りは、母の契約獣である風の精霊(シルフ)に任せることになった。


 ジュディと何年も山の見回りをしているだけあって、慣れたものだ。

 ユディが細かく指示しなくても、万事心得ている。


「万が一、ユディ様におケガをさせた場合、オセロ様にご納得いただける説明をする自信がございませんので……同行はご容赦を」


「気を遣わせてごめんね」


 シルフを見送って、ユディはため息をついた。

 見回りくらいならできると思っていたのに、できなかったことが悔しい。

 同行すらせず、人任せにしていることにも落ち込む。


「どこも魔力濃度は低く、安全圏でした。魔獣も見当たりません」


 帰ってきたシルフが、細かな数値とともに総括を報告してくれる。


「気になることといえば、街道に近い場所に蜂が巣を作っておりました。

 通行人に危害を及ぼすかもしれません。

 いかがいたしましょう?」


「お父さんに相談して、明日また指示するよ。ありがとう」


 シルフは一礼し、主であるジュディのもとへ戻っていった。


(……普通だ)


 頼んだことを、頼んだ範囲でやってくれる。

 当たり前のことに、ユディは安心した。


「さて、と。これを剥かなきゃ」


 ユディは軒下に置かれていた大きなカゴを持ち上げた。

 中には、暗い赤紫色をしたさやが山盛りに入っている。


 ルークが畑仕事のお礼にもらったチクマメだ。

 魔力を蓄える豆で、乾燥させれば魔力回復薬になる。

 売り物より一回り小さい規格外品だが、自分たちで使う分には十分だった。


 ユディはせっせとさやを開き、並んだ紫色の実を落としていく。


 一つ、二つ、三つ。

 十、二十、三十。


 カゴの中身は少しも減ったように見えない。


「……多いなあ」


 一人でやるには、単調すぎて飽きる作業だった。

 誰かと一緒に、おしゃべりしながらやるなら楽しそうだ。


(お手伝いを呼ぼう)


 ユディは腰の短杖を抜いた。

 相手をしばし考えて、ひらめく。

 杖を振り、召喚の魔法陣を展開した。


「――出でよ、ラミー!」


 魔法陣から現れたのは、下半身が大蛇の美しい女性だった。

 幻獣、ラミア。

 ユディの姿を認めると、青白い頬がぱっと紅潮する。


「お久しゅうございます、ユディお嬢様!」


 しゅるしゅるっと、蛇の下半身が素早く動いた。

 たおやかな二本の腕が、ユディを抱きしめる。


「久しぶり、ラミー。来てくれてありがとう」

「お嬢様がお呼びなのですもの。参って当然ですわ」


 ラミーは頬ずりせんばかりの勢いで、再会を喜ぶ。


「大きくなられて……寮生活はいかがですか? ちゃんと食事は召し上がっておられますか? わたくしの目がないからと、甘いものばかり食べてはいけませんよ」


「食べてる、食べてるよ」


 ぎゅう。

 蛇の下半身まで、愛情たっぷりに巻きついてくる。


「ぐえっ」


 ユディは思わずうめいた。


 ラミーは、もともとユディたち兄妹の乳母をしていた幻獣だ。

 優しくて、世話焼きで、とても良い幻獣である。

 ただし、愛情表現がちょっぴり息苦しい。


「それで、本日はどのようなご用でしょう?」

「チクマメのさや剥きを手伝ってほしくて」

「その程度のこと。喜んで」


 二人は軒下に並んで腰かけた。

 ラミーは慣れた手つきで、次々とさやを剥いていく。


「……本当にご契約なさったのですね」


 ラミーの金色の目が、山頂を一瞥した。


「オセロのこと?」

「ええ。幻界でも、大変な話題になっておりますわ」

「知ってたんだ」


 ラミーは山頂をはばかるように、声を落とした。


「乱暴なことは、されていませんか?」

「大丈夫だよ。そういうのは全然」


 本当は、一度だけ噛まれたが。

 それを言えばラミーが怒り狂って絞め殺しに行きそうなので、ユディは伏せておいた。


「怖い思いをなさっていませんか?」

「怖い思いより……困ってることの方が多いかなあ」

「たとえば?」


 さやを開きながら、ラミーが首を傾げる。

 ユディは苦笑した。


「オセロ、維持魔力が高くてね。私の魔力、常に半分以上取られてるんだ」

「半分以上!?」

「だから、これがないと後期の魔法実習がもたないと思う」


 ユディはチクマメを指差した。

 自分で使える状態にした分は、全部持って行って良いと言われている。

 それで、ユディはさや剥きに精を出していたのだ。


「維持魔力がそんなに高いのは困りますね。

 ユディ様、魔力量は多くありませんものね」


「その代わり、オセロ、万能って言っていいくらい万能だけどね」


 ユディは明るく笑った。


 だが、ラミーの反応は芳しくない。

 心配そうに眉尻を下げている。

 聡い元乳母には、空元気を見抜かれているようだった。


「……正直、ちょっと重いとは思ってる」


 ユディはぼそっと、本音を漏らした。


「重い?」

「維持魔力にしても、扱う責任にしても。思ってたより、ずっと大きくて」


 はあ、と大きなため息を吐く。

 自然と背中が丸くなった。


「身の丈に合わない、貴重で立派なお城を、自宅としてもらっちゃった気分だよ」

「……ご負担が大きすぎるようでしたら、契約の見直しも必要では?」

「そこまでは思ってないんだよ! 大丈夫!」


 この愛情深い乳母は、我が子同然のユディたちのためなら、何をするか分からないところがある。

 ユディは深刻な話ではないと強調し、学生生活の話へ逸らした。


 しばらくして、人狼のダイスが家に戻ってきた。


「お帰り、ダイス。何か取りに来たの?」

「いえ。ルーク様が、今日はもう終わっていいと」


 ユディは立ち上がり、エプロンについた細かなゴミを払った。

 ラミーの助力もあって、チクマメはすべて実を取り出し終えている。


「少し早いけど、お茶にしよっか。

 都で薔薇のジャムを買ったの。ラミーが好きだったなあって思って」


「まあ、嬉しい!」


 ユディは台所へ行き、パンを薄く切った。

 薔薇のジャムを、たっぷりのクリームと一緒に挟む。


「あら。お嬢様の分は?」


 ジャムサンドもカップも二人分しかないことを、ラミーが見咎めた。


「私はまた後で」

「でも、わたくしたちだけ先にいただくわけには」

「ええと……私は、オセロが起きたら一緒にするから」


 ラミーとダイスが、一瞬だけ黙った。

 後にする理由を悟ったらしい。


 オセロがいたら、どうしたって二人は緊張する。

 だからユディは、時間をずらしているのだと。


「では、お嬢様。お言葉に甘えて、お先に」

「いただきます」


 お茶の最中、ラミーはダイスに近況を尋ねた。


 今年の気候はどうだとか、村の様子はどうだとか。

 あの時のことは結局どうなったのだとか。


 長く同じ家に呼ばれていた幻獣同士、気心が知れている。

 まるで家族のような空気だった。


(帰ってきたって感じがするなあ)


 ユディは笑いながら、二人の会話を聞いていた。


「ごちそうさまでした」


 紅茶を飲み終えると、ラミーは巻いていたとぐろを緩めた。


「せっかくですし、お夕飯もお作りしますね」

「本当? ラミーの特製香草焼きが食べたい!」

「はい、はい」


 ラミーは冷たく整った顔を、ふっとほころばせた。


「オレも何か手伝うことありますか?」

「じゃあ、ダイス。軒先のさやを片付けてもらえる?」

「分かりました」


 ダイスがさやの山を抱える。


 その瞬間。

 ユディの頭に、ここ数日のオセロの所業が走馬灯のようによみがえった。


「ダイス!」


 慌てて、去っていく相手を呼び止める。


「片付けるっていうのは、堆肥用の桶に入れてってことだからね!

 燃やしたり、その辺にばら撒いたりしないでね!」


 ダイスは琥珀色の目を、きょとんとさせた。


「……はい。そうしますが」

「あ」

「生ゴミと同じように、適当に刻んで、普通に捨てればいいんですよね」

「う、うん。普通に、それでいいの」


 ユディは顔が熱くなった。

 何を当たり前のことを念押ししているのか。


「ごめん、変なこと言って」


 ダイスは口元をわずかに緩ませた。


「オレは変化と肉体強化の魔法しか使えませんから。安心してください」

「はは……そうだよね」


 最近、どうも基準がおかしくなっている。


 ユディは苦笑いして、取り出した実を抱えた。

 大きな干しざるに移し替え、日当たりの良い場所に置く。


 それから、改めて自分とオセロのお茶を用意した。

 杖を手に、呼応の呪文を唱える。


「我が呼びかけに応えよ――ぐっ」


 頭に、ずしりと重みが乗った。


「……オセロ?」

「重たい男って言うから、重たくしてみてる」


 頭の上から声がする。

 窓ガラスを見ると、小竜姿のオセロが頭の上に乗っていた。


「聞いてたの?」

「聞こえてきたんだよ」

「山頂までかなり離れてるけど?」

「誰かさんが浮気してるなって、様子見に来たら聞こえた」


 ぺし、ぺし、としっぽで頭を叩かれる。


「オセロ、さやを剥く仕事なんてしたくないでしょ?」

「そんなの、言ってみねえと分かんねえだろ」


「じゃあ今度、一緒にする?」

「この俺にそんな雑用させるとか正気か? 暑さで頭やられてんの?」


「結局やらないの!? なんなの!?」

「まず俺様の許可を取ろうという姿勢が大事」


「私、まだ許可制なの!?」


 頭から降ろそうとするが、しっぽが手荒に抵抗してくる。

 困っていると、ラミーがやってきた。


「まあまあ、オセロ様。これでも召し上がって、お気をお鎮めください」


 薔薇のジャムサンドが差し出される。

 しかし、オセロは即座に顔を背けた。


「いらね。毒でも盛られてそうだし」

「オセロ!」

「ご安心を。こちらはユディ様がお作りになったものですから」

「そういう問題じゃないよ。ちゃんと謝って!」


 ユディが叱ると、オセロは鼻を鳴らした。


「あのな。こいつ、俺が前にここへ来た時、素知らぬ顔で眠り薬入りのミルク出してきたんだぜ」

「えっ?」


 初耳だった。


「飲まないでいたら、おまえが飲んでさ」

「頑なに物を食べない時があったのって、そのせい!?」

「陰湿〜。さすが蛇女〜」


 オセロはここぞとばかりに非難する。


 しかし、ラミーは眉一つ動かさない。

 むしろ、さらに冷ややかな顔になった。


「やはり。あの時の白い小竜は、貴方様でしたのね。追い払おうとしたのは、的確な判断でしたわ」


「竜種避けの香まで焚いたりよ。やりすぎだろ」


「やりすぎといえば、そちらこそ。正体に勘づいたダイスの毛をむしって、黙らせたそうではありませんか」


「ノミを取ってやっただけですぅ〜」


 見えない火花が散る。

 ユディは、何も気づいていなかった自分に軽くショックを受けながらも、二人の間に割って入った。


「ラミー、お湯! お湯、沸いてるよ!」

「あら、いけない」


 ラミーは台所へ戻りかけ、ふと振り返った。


「ああ、そうそう。今晩の夕食は、わたくしがお作りしますので。オセロ様は必要ございませんわよね?」


「当たり前だろ、蛇女。おまえ、今度は致死量の毒草入れるだろ」


「まさか。そんな生ぬるいこと。

 致死量の百倍ほど入れて、きっちり幻界へ強制送還いたしますわ」


 最後まで火花を散らしながら、ラミーは去っていった。


「……もう」


 ユディはほっと肩の力を抜く。

 頭の上へ、ジャムサンドを差し出した。


「オセロ、ほら。おやつ」

「いらね」

「何も入ってないよ。ほら」


 ユディは自分で一口食べてみせた。

 それでも、オセロは口をつけようとしない。


「……おまえさ」


 不機嫌そうな声が、頭上から降ってきた。


「俺のこと、本当に相棒だって思ってる?」

「思ってるよ」

「じゃあ、なんで最初に呼ばないんだよ」

「だから、それは――」


 返事を最後まで待たず、オセロが言った。


「俺がやったことに、おまえが怒るのは、まあ仕方ねえ。

 でも、だからって次から俺を呼ばなくなるのは違うだろ」


「――」


 ユディは喉に言葉を詰まらせた。


「何するか分かんねえから、最初から使いません。

 面倒そうだから他の幻獣に頼みます。

 じゃあ、俺は何?」


 問われて初めて、ユディは気づいた。


 きっとオセロが嫌がるから、別の幻獣に頼んだ。

 自分では、そう思っていた。

 でも、本当はそれだけではなかった。


 山一帯の魔力を勝手に散らしたこと。

 知らない悪魔を呼び出して、仕事を丸投げしたこと。

 何かを頼むたび、自分では思いつきもしない方法を持ち出してくること。


 また何か起こるかもしれない。

 そんな不安があったから、オセロを選択肢から外していた。

 気遣っていたつもりで、実際には腫れ物に触るように避けていたのだ。


 それは、相棒として扱っているとは言えない。


「怖いなら、怖いって言えよ。半端に避けられる方がムカつくわ」


 声からは、いつものふざけた調子が消えていた。

 ユディの胸が、ずきりと痛む。


「ごめん、私――」


 どう謝ればいいのか。

 これから二人で、どう契約を続けていけばいいのか。

 言葉を探しているうちに、不意に頭が軽くなった。


「……オセロ?」


 黒い小竜の姿は、もうそこになかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あらら〜拗ねちゃったね。 どうするユフィ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。