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落ちこぼれ召喚士、最強竜を召喚してしまう  作者: サモト
第2部

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5話 夏休みの課題

 お祝いのケーキは家族の食卓に出せなかった。

 しかし、作ったものをそのまま腐らせるわけにもいかない。


(とりあえず、二人だけのお祝いとして作ってしまおう)


 ユディは、薄く焼いた皮を一枚、皿に広げた。

 冷めた皮はしっとりとして、指先にやわらかくなじむ。


 フレッシュチーズにミルクを加えてなめらかに練り、蜂蜜で甘みを足す。

 できあがったクリームを、皮へむらなく伸ばした。


 一枚重ねて、また塗る。

 もう一枚重ねて、また塗る。


 淡い卵色と白いクリームの層が、少しずつ高くなっていく。

 形ができてくると、しぼんでいた気持ちも少しだけ上向いた。


 最後に、桃のコンポートを薄く切って花のように飾る。

 ブラックベリーのジャムを水でゆるめ、黒紫の線を細く垂らした。


「……よし!」


 最初に思い描いていたものよりは地味だ。

 けれど、これはこれで悪くない気がした。


 できあがったケーキを手に、自室の扉をノックする。


 今日はあいにくの天気なので、オセロは朝から部屋で過ごしていた。

 人間姿でユディのベッドを占拠し、兄の部屋にあったと思しき娯楽雑誌を読んでいる。


「オセロ、ケーキ食べる?」

「食う」


 寝転がっていたオセロは、すぐに身を起こした。


「二切れ? 三切れ?」

「全部」


 オセロは大皿ごと自分の方へ引き寄せた。

 フォークも使わず手でかぶりつき、またたくまに一切れを消す。


「私の分!」


 ユディは慌てて、小皿に一切れ確保した。

 その間にも、もう一切れ消える。


「もうちょっと味わって食べてよ」

「褒め言葉の代わり」


 そう言われると、悪い気はしない。

 ユディは機嫌を直した。


「契約記念のケーキだから、たくさん食べて」


 オセロが少し呆れた顔をする。


「来年は来年で、一周年記念とかやるんだろ」

「よろしくお願いします」


 もちろんそのつもりだったので、ユディは素直に頼み込んだ。


 自分もフォークでケーキの先を切り取り、口に運ぶ。

 夏向きの、あっさりとした味わいだ。

 クリームには少し酸味があって、食べやすい。

 たちまち食べ切り、もう一切れに手を伸ばした。


「取るの、一つでいいワケ?」

「そんなに食べられないよ」

「おまえの家なら、家族でこういうことやりそうなのに」


 オセロは特に何かを気にした様子もなく、残りのケーキを独り占めしている。


 だが、ユディは胸が詰まった。

 気にしないでおこうと思っていたことが、やはり喉につかえた。

 フォークを置く。


「……ごめんね」

「は?」

「契約のお祝い、本当は家族でやるのに」


 しゅん、とうつむく。

 大部屋で、たくさんのごちそうとケーキを囲んで、みんなで楽しくお祝いする光景がよぎった。


「なに謝ってんだ、おまえ」


 たちまちオセロが半眼になる。


「俺がそーゆーことしたがると思う?」

「思わないけど」

「そういう接待は断固拒否する。契約外の違法労働として訴える」

「そこまで言う!?」


 オセロは心底嫌そうにしている。

 気にしていないのはありがたいが、そこまで拒否されるのも複雑だった。


 ユディとしては、やはり家族と仲良くなってほしい――とまでは言わない。

 せめて、家庭内が一触即発の空気にならない程度にはなってほしい。

 今のままでは、これからも帰省しづらい。


(そのためには、私がちゃんとオセロを扱えるようにならなくちゃ)


 昨日の件は、要するに指示が足りなかったのだ。

 「魔獣を威嚇して」ではなく、「吠えて威嚇して」と細かく伝えるべきだった。


 村へ来た日に起こした、ニワトリと牛の騒ぎもそうだ。

 「魔法で囲って」ではなく、「薄い結界を張って」と言っていれば、あんな騒ぎにはならなかったはずだ。


 ケーキを食べ終えると、ユディは話を切り出した。


「オセロ」

「なに?」

「今度から、威嚇してって言った時は、睨むか吠えるかにしてね」

「わかった。ガンつけて吠えとくわ」

「都度、どっちか指示するから!」


 ユディは即座に訂正した。

 この契約獣は、何事も足す方向に動くらしい。


「あと、魔法も。威力は抑えて」

「抑えてるだろ」


「昨日の火の矢なんて、矢の数は多いし、威力も強かったじゃない」

「どこが。小物相手だったから、優しかったろうが」

「あれで……優しい」


 ユディは遠い目になった。


「なら、具体的に言えよ。火の矢は何本で、威力はどんなもんがいいんだよ?」


 オセロはベッドの上であぐらをかいた。


「ええっと……普通の魔導士が出すくらいでいいんだけど」

「人間の魔導士は、何本の矢を、どれだけの魔力で、どんな出力で出すんだよ」


 ユディは答えに詰まった。

 召喚以外の魔法には疎い。詳しく聞かれると困ってしまう。


「つーか、昨日の威力は、人間の魔導士を参考にしてるからな?」

「あれは普通じゃないよ」

「俺に挑んでくるやつは、あんなもんだった」


 ユディはまた遠い目になった。

 オセロに挑む魔導士など、上級魔導士の中でもさらに上澄みの者たちだろう。

 それを基準にされてはたまらない。


「らちが明かねえな」


 オセロは机の上にあったユディの杖を取った。


「ユディ、おまえの思う火矢を見せろよ。それを基準にするから」

「……むり」


 ユディはボソっとつぶやいた。差し出された杖から顔を背ける。


「召喚士が魔法苦手なのは知ってっけど、少しくらい攻撃魔法は使えるだろ?」

「本当に少ししか使えないから」


 ピンク色の目が泳ぐ。

 召喚魔法には自信があるが、それ以外はまるでない。


「とりあえず、やれ。基準がないことには話が進まねえだろ」

「う……分かったよ」


 ユディは杖をつかんだ。

 雨の降りしきる外へ向かって、窓から杖を振る。


「火の矢よ!」


 杖の先から、小枝ほどの細さの火矢が生まれた。

 飛んでいく――というほどの勢いはない。

 ゆるやかな放物線を描いて、へにょりと落ちていく。


「……」

「……」


 地面に落ちる前に、火矢は雨に負けて消えた。


「……で?」


 オセロは神妙な表情で、主人を見た。


「本番は?」

「今のが本番」


「今の種火が?」

「種火よりは攻撃してる!」


「敵に届く前に、雨に負けてんじゃねえか。あれで何を倒すんだよ」

「だから、苦手だって言ったでしょ!?」


 ユディは恥ずかしさのあまり、ベッドの上に伏せた。


「まあ、落ち込むなよ。あそこまで弱いと、逆に敵も油断する。油断させる才能はある」

「沈んでる人間をさらに沈めないで」


 ユディは、頭を撫でてくる手を払った。


「こういうわけだから、私にお手本は示せないんです!」

「ここ百年で一番の衝撃。俺様の主人、魔法がダメすぎた」


「契約やめる?」

「こんな主人を受け入れてる俺、なんて寛大」

「そうだね! ありがとう!」


 ユディは投げやりに返した。


 普通の基準を共有することすらままならない。

 その事実に、深いため息が出た。


「……そういえば、昨日の魔法はなんだったの? あんなの、はじめて見たんだけど」


 ユディがよく見る火の矢の攻撃魔法といえば、一度に数本の火の矢を放つものだ。


 ところが、昨日のオセロの火の矢は違った。

 一度に出すのではなく、魔法陣の縁に沿って連射。

 おまけに、その魔法陣は魔獣の動きに合わせて移動していた。


「なんて魔法?」

「殺さないだけありがたく思え矢」

「正式名称は」

「Fデルタ1-R3AT型」

「え、えふでるた?」


 聞き慣れない用語に面食らう。

 ユディが慌てて呪文名を書き留めようとすると、オセロに紙とペンを奪われた。


「こっちじゃなんて言ってるか知らねえけど、幻界も現界も魔法の基本は同じだろ。魔法陣から察しろ」


 オセロは、がりがりと魔法陣を描き始める。


 円の内部に三角。

 その周囲に魔術文字。


 火属性を示す基本紋は分かったが、文字はほとんど分からない。

 見慣れない省略記号ばかりが並んでいる。


「……」


 さっぱり分からない。

 分からないということだけが、はっきり分かる。


「これって、上級魔導士が使うくらいの難易度?」

「知るかよ。人間の基準なんて」


 ユディは、オセロの魔法技術がどれほどのものなのか知りたかった。

 しかしながら、お互いに現界の魔法事情に詳しくない。

 実力を把握できなかった。


(……そういえば、前に聞いたっけ。オセロは竜だけあって、魔法が得意だって)


 オセロとの契約をもくろんだ召喚士の語っていたことを思い出す。


(ひょっとしたら、全分野マスターしているかもって言ってなかったっけ……?)


 思わず疑ってしまう。


 攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、時空間魔法、結界魔法――。

 魔法にはこの他にもさまざまな分野があり、どれも修得には数年かかる。

 人間の魔導士で、全分野を修めた者はいない。


(……でも、寿命のない幻獣なら、できるのかな)


 ユディは半信半疑で、恐る恐るオセロに質問した。


「あのさ、オセロ。ひょっとして、まさかとは思うけど……魔法、全分野マスターしていたりは」

「してるけど?」


 あっさり肯定され、ユディは絶句した。


「いや、でも。苦手な分野ってあるよね?」

「そりゃ、多少はあるけど。俺様天才だし」


 オセロは、ふふん、と得意げに胸を張る。


「派生属性だってマスターしてるぜ」

「そ、それも……?」


 派生属性とは、基本属性である地、水、火、風、光、闇が組み合わさった属性のことだ。

 火と光で雷、地と闇で重力、といった具合になる。


 これも魔法分野と同じく、得手不得手があって当然だった。

 たとえば炎竜であれば、火と風を含む属性は得意だが、水と地を必要とする凍結魔術はできない個体もいる。


(……え。ちょっと待って。オセロ、想像以上にすごくない?)


 魔法を全分野だけでなく、全属性扱える。

 人間ならあり得ない。

 おそらく、幻獣でも。


(幻界最強って……まさか、本当に、本当?)


 オセロが強いことも、すごいことも、分かっていたつもりだった。

 けれどその事実が今、いっそうの重みを持って、ユディに迫ってくる。

 改めて、ユディは自分の契約獣を見つめた。


「俺様に不可能はないんだよ」


 内心を見透かしたように、オセロがにっと笑う。


「おまえがちゃんと指示さえすりゃ、どんな注文にも応えてやるよ」

「――」


 冗談、と笑い飛ばせなかった。

 実際、不可能と思えるようなことを、オセロは何度も成し遂げている。


(……でも、そんなこと言われても。私、魔導士としては初級がやっとなんだけど)


 ユディの背中に、だらだらと汗が流れる。

 魔導士としての知識も技術も、ユディはいつも及第点。

 オセロに「これが人間の普通」と実演してみせることすらできない腕なのだ。


(いくらオセロがすごくても、私が指示を出せなかったら意味ないよお)


 ユディは心の中で情けない声を上げながら、ケーキの皿を片付けた。


「どうしたの? 難しい顔して」


 一階へ降りると、母が帰っていた。

 今日は天気が悪いので、山の見回りを早めに終わらせてきたらしい。

 作業室で、雨に濡れた魔狼を拭いてやっている。


「オセロへの指示の出し方に悩んでて……」

「威嚇してって言ったら、魔法でやったんですって?」


 ルークから聞いていたのだろう、ジュディは苦笑いする。


「オセロ、魔法がすごく得意みたいで。全分野全属性をマスターしているみたいなんだけど」

「嘘。万能じゃない」

「そうなの。万能なの。万能なんだけど――」


 ユディはもどかしくなり、両の拳を握った。


「私は召喚魔法しかよく分からないから、指示ができないの!」


「ああ……最新式で最高級の万能調理器をもらったのに、説明書が分厚すぎて、お湯を沸かすことしかできない、みたいな」


「そんな感じ!」


 ユディは腕組みをして、うなった。


「私もがんばって魔法の勉強はするけど……すごく時間がかかりそう」

「だれか、魔導士に相談してみたら?」


 悩む娘に、ジュディが別案を出す。


「要は、特級魔導士に一般人が指示を出すような状況でしょう?

 だったら、魔導士に聞いた方が早いと思うけれど」


「あ……そっか」


 ユディはぽんと手を打った。

 魔導士なら、魔法を依頼される時に欲しい指示を、自分より具体的に言い表せるはずだ。


(それに、魔導士なら、私の想像する“普通の魔法”も実演できるよね!)


 つまり、お手本を見せてもらえる。

 沈んでいたユディの心に、希望の光が差してきた。


「でも、お母さん、魔導士の知り合いは少ないのよね……。お父さんならいるかしら?」

「大丈夫。まずは私の心当たりを頼ってみる!」


 ちょうど、頼りにできそうな魔導士がいる。

 ユディは台所で皿を片付けると、自室に駆け戻った。


「オセロ、都に行こう!」

「お。なんだ、おまえも田舎生活に飽きたか」

「違うよ。ルジェにアドバイスをもらいに行くの!」


 魔導士の名家の出身で、優等生。

 ルジェ=スペイドなら、きっと何かいい案をくれるだろう。


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>「Fデルタ1-R3AT型」 まさかのミサイル!? オセロ実は21世紀の地球に来たことある!?Σ(゜Д゜)
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